インド・アッサム州、ブラマプトラ川氾濫原における稲作体系の地域差と変容

DOI
  • 浅田 晴久
    首都大学東京 日本学術振興会特別研究員(PD)

書誌事項

タイトル別名
  • Rice-based cropping systems of different ethnic groups across the Brahmaputra floodplain in Assam, India
  • - 特に民族間の差異に着目して

抄録

1. はじめに <BR><br> インド北東地方に位置するアッサム州ではチベット高原からヒマラヤ山脈を越えて流下してくるブラマプトラ川の広大な氾濫原で伝統的に稲作が営まれてきた。現在でも人口の大多数が稲作に従事しており、州経済も稲作をはじめとする農業にたよる割合が大きい。しかし伝統技術を多数用いるアッサム州の稲作は他州と比べても生産性が低く、洪水や少雨など自然災害の影響も深刻であることから、近代化の必要性が主張されている。 <BR><br> これまでの既存研究の多くは県単位の統計資料を用いて稲作の問題点を指摘するという傾向が見られた。つまり生産量や単位面積当たりの収益というアウトプットに着目したマクロレベルの研究ばかりで、村落レベルの稲作体系、栽培技術についてはほとんど考慮していないのである。また、アッサム州にはアーリア系民族のみならず、チベット=ビルマ系、タイ系など諸民族が混住しているが、民族毎の技術の差異も十分に明らかにされているとは言えない。著者はこれまでタイ系民族アホムの稲作体系について調べ、民族的な特徴よりは生態環境の特徴が濃く表れていることを報告したが(浅田2011)、州内の他民族についても同様のことが言えるであろうか。<BR><br> 本研究ではブラマプトラ川氾濫原に住む諸民族の稲作体系を村落調査によって明らかにし、その民族間・地域間の差異を考察する。  <BR><br> 2.調査村落および調査手法 <BR><br> 2011年9月から12月までフィールドワークを行い、アッサム州のブラマプトラ川氾濫原に位置する12県から32村落を選定した。各調査村落の主要民族の内訳はオホミヤ(12村)、アホム(5村)、ボド、カチャリ、ミシン、ラバ、モトク(各2村)、ムスリム、デウリ、茶園トライブ、カルビ、コーチ(各1村)である。各村落は最寄り街から平均10 kmの距離にあり、氾濫域、平野域、丘陵域といった異なる生態環境にそれぞれ分布している。 <BR><br> 実際の調査は各村落を訪問し、稲作を営んでいる男性村人をインフォーマントとし、アッサム語による聞き取り調査および観察を行った。調査項目は村落概要(世帯数、民族構成、設立年など)、作付体系(過去および現在)、栽培方法(移植、除草、収穫、脱穀方法など)、品種(在来品種と改良品種、モチ性品種など)、農具(伝統農具と農業機械など)、水田特性(立地、土質など)に及ぶ。<BR><br>   3.結果と考察 <BR><br> 調査村で栽培されている稲の種類を調べてみたところ、すべての村落でハリ稲(移植稲、7月から11月まで栽培)が栽培されていることが分かった。ハリ稲に加えて、水田の比高に応じてアフ稲(直播稲、3月~7月)、バオ稲(直播稲、3月~11月)を栽培する村も多いが、地域差・民族差は見られない。一方で乾季作のボロ稲は州西部から中部に位置する村落で栽培されているという傾向がある。 <BR><br> 栽培方法に関しても村落間で大きな差異は見られないものの、苗床立地、脱穀方法、伝統農具などの一部に民族による違いが見られる。また、犂先の形状については一定の地域性が認められる。  外部技術の普及については、耕作機はほぼすべての村落で利用されているが、灌漑設備と化学肥料、高収量品種については、ボロ稲と同じく州西部の村落でより普及しているという傾向がある。これら外部技術は最寄りの農業局によってもたらされる場合と、住民同士の交流によって普及する場合の2種類ある。後者は特にバングラデシュからのムスリム系移民が重要な役割を果たしていることが村人からの聞き取りによって明らかになった。  <BR><br> 現在ブラマプトラ川氾濫原では民族間の稲作体系の差異はほとんど見られず、その背景として異なる民族間の歴史的な交流によって技術が普及した可能性が考えられる。<BR><BR><br>   浅田晴久2011.タイ系民族アホムの稲作体系-インド、アッサム州の村落における事例研究.人文地理63: 42-59. 

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205696844800
  • NII論文ID
    130005457084
  • DOI
    10.14866/ajg.2012s.0_100132
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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