カナダ西部のフランス語系コミュニティ

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タイトル別名
  • Francophone communities in Western Canada
  • コンフリクトから観光資源へ
  • From conflict to a tourist resource

抄録

英語とフランス語とを公用語とするカナダにおいて、フランス語を母語とする人々(以下、フランス語話者)はケベック州および隣接するオンタリオ州とニューブランズウィック州に集中している。そのため、一般にカナダ西部はフランス語と無縁という印象を持たれがちであるが、2011年センサスによると、マニトバ州で3.6%、サスカチュワン州で1.6%、アルバータ州で1.9%の人々がフランス語を母語としている(単一回答のみ)。また、歴史的にみても、毛皮交易の時代に内陸部に進出したフランス語話者と先住民とのあいだで混血がすすみ、メティス(メイティ)とよばれるようになるが、彼らはフランス語とカトリックを継承していた。そこで、1870年に州となったマニトバ州ではフランス語が英語と並ぶ公用語の地位を占めていた。その後、公立学校でのフランス語の使用が禁止されるようになり(マニトバ学校問題)、カナダ西部においてフランス語は急速に衰退していく。 カナダ西部のフランス語系コミュニティに関する従来の研究では、英語への言語シフトに焦点があてられてきた。しかし最近では、都市におけるフランス語話者の存在も注目されつつある(Gilbert 2010)。報告者も、英語圏の都市におけるフランス語話者による言語維持の要因をかつて検討した(Oishi 2003)。本報告では、現地調査に基づいて、おもにマニトバ州ウィニペグのフランス語系コミュニティであるサン・ボニファス(St. Boniface)を中心にカナダ西部のフランス語系コミュニティの最近の実態を、とくに観光や都市再生とのかかわりから検討する。現地調査は2011年9月および2012年8月に実施した。 現在ではマニトバ州の州都ウィニペグの一部となっているサン・ボニファスはレッド川の東岸に位置している。1818年にフランス系カトリックの宣教団により建設され、1840年代以降になると教育施設等が充実するようになり、早くからカナダ西部におけるフランス語系コミュニティの中心として発展した。一般に、ケベック州外のフランス語系コミュニティは隔絶地域に多く存在し、空間的隔絶が言語維持の主たる要因とされてきたが、サン・ボニファスは例外的に古くから都市的な地域に存在するフランス語系コミュニティである。1908年に市制施行され、長く独立した自治体であったが、1972年にレッド川対岸のウィニペグ市に編入されている。 サン・ボニファスでは、その長い歴史を反映して、宗教施設や旧市庁舎、あるいはフランス系カナダを代表する作家ガブリエル・ロワの生家などが重要な観光資源であり、整備がすすめられてきた。これらに加え、最近ではウィニペグ中心部と結ぶ橋から続くプロヴァンシェ大通り沿いにフランス語系ビジネスが集積し、散策を楽しめる魅力的な街づくりがすすんでいる。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680671065472
  • NII論文ID
    130005457238
  • DOI
    10.14866/ajg.2013s.0_144
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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