核遺伝子によるヒゲクジラ亜目の統計分類学的研究

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抄録

 鯨目 (Cetacea)は,陸棲とは異なる水棲環境に適応した哺乳動物であり,現生鯨類はヒゲクジラ亜目 (Mysticeti)とハクジラ亜目 (Odontoceti)の 2亜目で構成されている.鯨類の系統関係については,1990年代以降再編が続いており,その問題として過去に急速な放散が起こった事が先行研究により示唆されている.本研究では,ヒゲクジラ亜目における核遺伝子の未解析領域の配列決定および分子系統解析により,鯨類の進化史について検証を行った.系統解析にはヒゲクジラ亜目 3科 8種を用い,PCRによる目的遺伝子の増幅を行い,ダイレクトシーケンスにより配列を決定した.得られた配列情報と Genbankより収集した既知の配列情報を用い,MEGA5(Molecular Evolutionary Genetics Analysis software ver.5)によってマッコウクジラを外群とした近隣接合系統樹 (Kimura 2-parameter model, 1000回復元ブーストラップ解析 )を作成した.作成された分子系統樹において,ナガスクジラ科の内群は多分岐となっており,コククジラがナガスクジラ科のクレードに内包された.各遺伝子配列を複合した結果では,ヒゲクジラ亜目ではセミクジラ科が最初に分岐し,コククジラとナガスクジラ科が単系統性を示した.これらの結果より,コククジラの科としての独立性は検証の余地が残されていると考えられる.コククジラは一科一属一種に分類され,その形態的・生態的特徴はナガスクジラ科の種とは大きく異なっている.コククジラとナガスクジラ科の近縁性は先行研究においても示されている.しかし,本研究で得られた分岐を支持する BP値の多くが 60%以下である為,今後より多くの遺伝子領域において塩基配列を決定し,それらを複合した分子系統解析を行うことで,コククジラの進化史が明らかとなると期待される.

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  • CRID
    1390001205635445760
  • NII論文ID
    130005471588
  • DOI
    10.14907/primate.29.0_163_1
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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