海のこころ,森のこころ-鯨類と霊長類の知性に関する比較認知科学-

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抄録

 わたしたち人間の知性の「独自性」を明らかにするためには,他の生物と「共有」されている部分の切り出しが不可欠だ.このような知性の 2つの顔を生み出した進化的要因を,「比較認知科学」という手法を通じて解明する.進化を決定づけるきわめて重要な要因は,「系統発生的制約」と「環境適応」である.人間が属する霊長類,特に人間に系統的に近いとされる類人猿を対象として,その知性の源を探る研究が多く行われている.こうした「相同」の視点による比較では,系統的,身体的,環境的な相同性が伴い,これらの影響を排除することができない.そこで系統的にも身体的にも環境的にも異なる,もう一つの比較軸を導入したい.それは,系統的にはわれわれとは離れているものの,高い知性を獲得しているとされるイルカ類を中心とした鯨類である.それぞれの系統群は全く異なる環境の中で,それぞれの知性,すなわち「森のこころ」と「海のこころ」を育んできた.このそれぞれの知性の全体像を,系統内での種間比較(系統発生的制約),環境のさまざまな側面に対応する知性の間の比較(領域固有性),そして発達という時間軸の中での知性のダイナミックな変容(比較認知発達),という階層的な視点に立って明らかにしていく.このような大規模なスケールからの知性の比較と理解をもとに,「人間とは何か」という問いに答えを出したい.<br> 本ミニシンポジウムではこの視点に立ち,霊長類,イルカ類の研究者2名ずつが各自の最新研究などを紹介し,最後にこれからの研究の展望を議論したい.<br><br>1)森阪匡通「イルカの社会行動と音」:イルカの社会行動と音について,霊長類との違いを意識しながら紹介する.<br><br>2)中原史生「イルカの社会的認知研究」:イルカは他個体を何をもとに識別しているか,最新の研究と研究を進めるために開発中の新ツールを紹介する.<br><br>3)足立幾磨「チンパンジーにおける感覚間一致」:チンパンジーにおける感覚間一致の分析を通して,言語を支えるメカニズムの進化を考える.<br><br>4)友永雅己「チンパンジーとイルカの視覚認知」:森と海ということなる環境に適応してきたチンパンジーとイルカが,彼らの物理的,社会的環境を視覚的にどう認識しているかについての比較認知科学研究を紹介する.<br><br>5)ディスカッション 「これからの研究の展望と課題」<br><br> なお本ミニシンポジウムは科学研究費補助金基盤研究(S)「海のこころ,森のこころ-鯨類と霊長類の知性に関する比較認知科学-」(課題番号:23220006; 研究代表者:友永雅己)の一環として企画されたものである.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205636232320
  • NII論文ID
    130005471698
  • DOI
    10.14907/primate.29.0_35
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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