都道府県アンテナショップの立地と運営

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • The Locational and Management of Prefecture's Antenna Shops
  • 東京都区部の事例
  • Cases in Tokyo's Wards

抄録

1.はじめに<BR> 高度経済成長期には,人口や諸機能の東京一極集中が生じた一方で,その他の地域においては,人口の過疎化,高齢化など地域的課題が生じた.グローバル化の影響によって産業基盤が変化するなかで.農林漁業やその関連産業,観光など,域内資源を活用する方向性が打ち出されてきた.こうした社会的変化に伴い,1990年代以降に自治体がアンテナショップ(AS)を設置する動きが目立っている.ASは,民間事業者がマーケティング活動の一環として,市場ニーズの探索等を目的に設置する店舗であるが,近年では行政が公的に設置する事例が増加している.しかし,雑誌記事や一部の経営学における研究を除けば,十分に学術的検討はなされておらず,特に立地・運営の態様は明らかとなっていない.<BR> そこで本研究では,東京都区部の事例に対する検討を通じて,都道府県ASの立地・運営方式について明らかにしたい.調査方法は,本研究では各都道府県のアンテナショップ設置状況を把握し,各施設の概要や設置方針を検討することを目的に,2012年6月から12月にかけて,47都道府県を母集団としたアンケート調査を行った.その結果,回答のあった41道府県(87.2%)のうち,東京都区部へASを設置するものが31道府県であった.さらに,30道府県に対してはヒアリング調査を実施し,立地選定の経緯や現在の運営状況,今後の方針に関する調査・分析を行った.なお,本研究では都道府県ASを,行政施策の一環で設置される施設と捉えているため,実質的に行政の関与が存在しない施設については,本研究の調査対象から除いた.<BR><BR>2.都道府県アンテナショップの立地・運営状況<BR> 1つの都道府県が2~5カ所のASを設置している場合があるので,都道府県数と件数は一致しない.件数ベースでみると,2012年8月時点では,全国に48件の都道府県ASが存在する.都市別にみると,大阪や名古屋などの大都市圏,各道府県の県庁所在地への分布がみられるが,件数で最多の地域は東京都区部(32件)である.都区部では,千代田区7件,中央区13件,港区5件という分布を示し,銀座・有楽町周辺部への集中傾向がみられるほか,少数ながら新宿や池袋など副都心部への展開がみられる.設置目的は,地元のPR,観光誘客,域内経済の振興,そして都区部での情報収集(都市住民のニーズを把握)にある.ヒアリング調査によれば,都区部のASを通じて域内の魅力を発信し,物産販売や観光誘客を促進するとの回答が目立った.これは,都道府県ASの大半を商工観光系の部署が所管していることに関係している.<BR> 上記目的のもとで,各都道府県ASには食品中心の物産販売,観光案内,軽食提供やレストランなどの機能が置かれ,商談会の開催など事業者向け支援機能を持つ事例がみられた.ASの運営に際しては,都道府県が事業の統括と予算措置を行い,物産販売や飲食などの営利部門の管理・運営を,社団法人や民間企業へ委託する方式が採られている.都道府県ASには,行政の設置目的,運営方式に共通性がみられる一方で,いくつかの点で多様性がある.第1に,ASの施設総面積は1,658㎡から33㎡までと幅広く,施設規模では50倍の差がある.第2に,年間販売額では8億円から860万円までと,運営実績でみた場合にも,約100倍の差が生じている.第3に,施設形態では,一般にみられる物産販売,観光案内,喫茶・レストランを併設する型だけではなく,大分県のレストラン特化型,埼玉県や徳島県のコンビニエンスストア併設型など,設置方針によって施設形態に差異が生じている.<BR><BR>3.本研究の知見<BR> 本研究で得られた知見は,以下の諸点である.第一に,都道府県ASの立地方針は,コンセプトへの適合度や人通りの多さなど,事業内容に基づく明確な立地方針を持った事例と,他の道府県の分布状況を見て,大勢に追随した事例に分かれる.近年では,銀座,日本橋地区への集中化傾向が強まっており,立地選択の方針として後者タイプの増加を指摘できる.第二に,設置目的には共通性がある一方で,各都道府県ASの運営方式に多様性がみられた点である.都道府県ASは,百貨店における物産展と比べて常設である点が特徴的であり,都道府県ASの運営方式,および相対的な事業規模には,各道府県の方針が色濃く反映されている.第三に,既存研究においては,都道府県ASの課題として費用対効果が指摘されてきたが,本研究においても同様の課題が裏付けられる.AS不設置の府県には,費用対効果を懸念する回答があるほか,都区部に設置する道府県のなかには,コンビニエンスストア併設型を選択する事例もみられる.地元のPRや観光誘客などの目的に対し,明確な経済的効果を求められる一方で,行政活動であるために営利追求に対する制約があるという点に,都道府県ASの課題が存在する.

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205696702336
  • NII論文ID
    130005473308
  • DOI
    10.14866/ajg.2013s.0_46
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ