高解像度DEMの災害地理学的研究への応用

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  • Application of high resolution DEM for studies of disaster geography

抄録

1.はじめに<br> 災害地理学的研究において数値標高モデル(DEM:Digital Elevation Model)は,既に起こった災害の「なぜ」を解く重要な手がかりであると同時に,今後起こりうる災害の被害を予測するための,決定的な境界条件の一つである.災害地理学的な考察,たとえば,丘陵地の宅地造成地における地滑りによる建物被害を考察する過程では,その場所における過去の地形や,現在の地形に至るまでの変遷が重要である.一方,特に津波による被害や津波シミュレーションの精度向上のためには,海底地形が重要である.しかし,失われた過去の地形や海底地形など,普段直接目にすることができない地形を正確に把握するためには,それに適した計測手法を用いたり,場合によっては新たな計測手法を開発しなくてはならない. 筆者らは,「災害地理学的研究のための高解像度DEM作成」を軸に,(1)過去の地形の詳細な復原について,(2)浅海底地形の細密な計測について解析を行っている.また,これらによって作成されたDEMの精度を明らかにし,どこまでの議論が可能かの検討を進めている.本発表ではそれぞれの概要を述べる.   <br><br>2.過去の地形の復原 <br> 東日本大震災では,仙台市の宅地造成地で大規模な地滑りが発生し,建物が傾くなど多くの被害を出した.仙台市は,宅地造成の履歴マップ(縮尺1万分の1)を作成し,Web上で公開するとともに(仙台市,2013),建物・地盤被害分布との関係を分析している(森・風間,2013).また,建物被害の分布と,切り土盛り土分布との間には相関が見られるという報告があり(佐藤・中埜,2011),切り土盛り土境界は防災上重大な意味を持つと考えられる.その境界を正確に知るためには,過去の地形をできるだけ正確に復原したDEMを作成する必要がある.過去の地形のDEMを作成する方法には,1)過去の大縮尺地形図から等高線をデジタイズする方法,2)航空写真測量により直接地形モデルを作成する方法がある. 著者らは上述の手法によって作成されるDEMの精度を検証するために,モデルケースとして,愛知県名古屋市の旧版の都市計画図およびそれを作成する際に使用した航空写真を入手し,DEMを作成した.当時から地形改変のない場所を選定し,精度検証を行うとともに,過去と現在の地形の差分を,新旧のDEMを差し引きすることにより求めた.これにより,切り土盛り土境界の位置を推定した.また,作成手法の違いによる精度の違いを検証した.  <br><br> 3.航空機搭載型測深LiDARによる浅海底の地形計測<br> 海底地形は,通常,測量船に艤装されたマルチビーム測深機により計測される.測量船による計測は確立された技術に基づいた高精度な計測が可能である一方,水深が十数mより浅い浅海域には大型の測量船が進入できない.浅海域でも航行可能な小型船による測深には多くの時間を要し,広域性に欠ける.したがってこれまで,広範囲の浅海底地形を効率よく均質に計測することは困難であり,陸上DEMと海底DEMとの間にギャップが存在する.近年,航空機搭載型測深LiDARによる測深技術が実用化されている.これは上空から波長532 nm(緑色)のレーザーパルスを照射し海面および海底からの反射時間を計測して水深を計測する技術で,計測が可能な水深が数十mより浅い範囲に限られるものの,測量船による海底DEMと陸上DEMとの間のギャップを埋めることが期待される. 国立環境研究所と産業技術総合研究所は,現在,北海道から紀伊水道にかけての太平洋沿岸の一部で,航空機搭載型測深LiDARにより海底地形を計測中である.同種のセンサーは日本国内では海上保安庁のみが保有しており,研究機関による学術的利用は国内初である.これまでに得られた地形データについて精度検証を行った結果,1 m程度(標準偏差)の精度であった.今後,誤差の水深依存性や水質依存性,底質依存性などについても詳細に検証を進める.<br><br>4.目的に適したDEM作成の必要性<br> 災害地理学的研究に使用するDEMは,その目的に適した手法により作成されなくてはならない.また,保証される精度以上の議論に使用されてはならない.これまで,データ利用の際に,誤差や精度が考慮されることはあっても,そのデータが作成された経緯や手法までは十分な注意が払われてこなかったように思われる.しかし,特に災害地理学的な検証に利用する際は,これらに十分留意し,場合によっては使用目的に合致した作成手法でデータをいちから作成し直すことも必要である.<br>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205696534784
  • NII論文ID
    130005473391
  • DOI
    10.14866/ajg.2013a.0_100027
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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