変動地形研究者が果たすべき役割

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タイトル別名
  • The role of tectonic geomorphologist directly relevant to nuclear safety
  • - 原子力施設周辺の活断層評価 -

抄録

現在、我々は、原子力施設周辺で多数の活断層が存在しているという事実、原子力関連施設の耐震安全性が不十分なまま放置されてきたこという事実に向き合っている。このような事態に陥ったことに関しては、地理学界にも大きな責任がある。<br> 活断層の認定や活動度の評価においては、高度な地形学的見識が必要とされる。しかし、安全審査の場では、「水は高い所に向かっても流れる」と発言する「専門家」や、旧汀線高度異常などに気付かない「専門家」が活断層の評価を担当してきた。また、電力との密接な関係をもつ「専門家」が評価を牛耳ってきたことも問題である。<br> 地形研究者は、上記した問題に対して具体的に提言することができたはずである。しかし、我々がこうした役割を果たしてきたとは到底いえない。問題に気づきつつも、「純粋な研究にこそ意義があり、社会的責任は負わない、負うべきではない」、「そんな議論は大人気ないことであり、相手にしないことだ」といった理由から沈黙を続けた研究者が多かった。原子力政策に係わることを避け、問題から目を反らしてきた研究者も多いと考えている。<br> 能登半島地震、中越沖地震に続き、東北地方太平洋沖地震によって大きな事故が発生した。これらの事故が発生した原因の一つは、耐震性安全審査において地形学の研究成果(地形学そのもの)が蔑にされてきたことにある。これらに対して地形学からの発言が無かったため、活断層の活動性は著しく過小評価され、あるいは活断層の存在自体が無視されてきた。理学は実学ではないとする主張は、一面では理解できる。しかしながら、多くの国民が関心を抱く原子力の問題に対して沈黙すると、学問の存在意義自体が問われかねない。<br> 2012年には原子力規制委員会が発足し、原子力施設の敷地内断層に関する外部有識者として、多くの変動地形研究者が学会から推薦された。有識者会合では積極的に意見が交わされているが、それ以外の場においても変動地形研究者は自らの役割を果たす必要がある。原子力発電所に関わる議論をタブー視してきた過去とは決別すべきである。<br> ところで、規制委員会での議論では敷地内の断層だけが重視され、問題が矮小化されている可能性が高い。本質的な問題は、どうしてそのような断層が存在しているのかということである。周辺の活断層の性状や敷地を含む空間に起こりうる現象を正確に把握してゆくことが最も重要である。<br> また最近、日本列島全体を大きく変形させた東北地方太平洋沖地震と津波の発生様式について、地震学的見解とは異なる、海底活断層との関係を重視した変動地形学的新知見が得られている。地震学的に定着した見解に対しても、地形学から積極的に問題提起をしてゆく必要がある。<br>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680672754176
  • NII論文ID
    130005473498
  • DOI
    10.14866/ajg.2013a.0_100072
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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