ペルー、ナスカ盆地周辺の山地斜面の古環境指標としての陸生巻貝について(3

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タイトル別名
  • Age and Height of Fossil Land Snail on the mountain slope around Nasca Basin,Peru(3

抄録

ペルー南部の海岸沙漠であるナスカ盆地の古気候変化の指標として、盆地周辺のカタツムリ遺骸の年代と高度、現世のカタツムリの生息環境を検討してきた。先行研究はMachtle,B. et al.(2006)によるナスカ盆地北方パルパ地区の2点の報告がある。阿子島(2011)は2点,阿子島ほか(2012a,b)は13点、本報告で14点を追加して計31点の年代―高度関係から古環境を論ずる。<br>現世のカタツムリの下限高度は約1300m付近であるが、ナスカ盆地西南部の高度750mに約1万年前の遺骸を発見し、ナスカ地区で完新世初期に相対的湿潤期があったことを確認した。<br> [問題点の所在]   1.ナスカ文化(BC200—AD700年)の盛衰の原因として古環境変化が予想されてきたが直接的な証拠はない。盆地の中には高度300~500m前後の台地とこれに数100~数10m刻みこんだ谷底面がある。ナスカ文化を支えたのは谷底面のリバー・オアシスと呼ばれる耕地であり、耕地を涵養する水は高度4,000mのアンデス山脈西斜面からもたらされた。よって高度4,000m~500mの間の斜面における乾燥帯上限の変動、植生や降水量の復元が課題となる。<br> 2.  Machtle et al. (2006),Eitel and Machtle(2008),Machtle and Eitel(2013)は、ナスカ盆地の北約20kmのパルパ地区の山地斜面の風成細砂層とその下部に含まれる陸成巻貝2点の年代(1.1万年前および現世)と高度を記載し、湿潤期に植被のために風成層が固定されたと考えた。さらに遺跡の分布、段丘堆積層中の洪水堆積期などの材料を加えて、次のような古環境変化を想定した;完新世前中期からBC4,000年までは湿潤,ナスカ期(BC200~AD800)には乾燥化がすすんで文化が滅んだ。AD1100年から1400年(後期中間期)は相対的湿潤期,インカ期および17-19世紀は乾燥化した。 <br> 再検討の結果“陸生巻貝から示唆される環境”とは、先行研究で想定された草原ではなく、サボテンが点在する岩屑斜面である。風成砂層があるとカタツムリは生息しにくい。むしろ完新世前期以降の乾燥化が風成層の供給を増加させた可能性がある(阿子島2011、阿子島ほか2012a,b)。<br>〔想定される古気候変化〕31点のカタツムリの年代―高度関係から;約1万年前は現在よりも湿潤、ナスカ期は不明。約1000年前以降の後期期中間期は現在よりやや湿潤もしくは同程度である。湿潤であっても天水のみにたよる耕作では不十分で(天水を一時貯留する耕作は現在も一部試みられているが)主要な耕作法とはならない(阿子島2010)。<br>文献 1) Machtle,B.et al.(2006)Z. Geomorph 142,pp.47-62 2)Eitel,B.and Machtle, B.(2008)New Technologies for Archeology,Springer, pp.17-38 3) Machtle and Eitel(2013)Catena 103,pp.62-73 4) 阿子島 (2010)季刊地理学,62, pp.222-244 5) 阿子島(2011)日本地理学会春季大会予稿集  6) 阿子島ほか(2012a)日本地理学会春季大会 7) 同(2012b)東北地理学会春季大会<br>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205694355456
  • NII論文ID
    130005473647
  • DOI
    10.14866/ajg.2014s.0_100089
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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