小学校・中学校社会科における教員の地理的専門性と授業実態

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  • Geographical expertise of primary and lower secondary Social Studies teachers and their practices
  • 新潟県上越地方における社会科授業アンケート調査から

抄録

1.本報告の目的<br> 学校教育成果実現における臨床的側面での大きな鍵は,実践をつかさどる教員にあり,教科教育実践の場合は担当教員の教科に関する専門性が大きく影響する。そこで,地理教育研究では,担当教員の地理的専門性と授業実践に関する大規模なアンケート調査として最近,秋本ほか(2010)や岩本ほか(2010)がなされるとともに,村山(2012)がこれら分析結果から見出される課題について社会科教育の枠組みをふまえて論じている。社会科教育においても東京学芸大学社会科教育学研究室が東京都の小学校教師に対してアンケート調査を2009年に実施し,教員の職能開発の視座から分析している[1]。<br> これらを参照しつつ発表者は2013年,新潟県上越地方における社会科授業実践実態と教員の専門性についてアンケート調査を実施した[2]。本調査は,現行学習指導要領下での調査である点,社会科教育実践全体を対象としている点で上記先行調査を補足する知見を有するため報告する。<br>2.アンケート調査の概要<br>・調査対象校:新潟県上越地方(上越市・妙高市・糸魚川市の小学校79校,中学校:29校。<br>・各校での対象者:小学校は社会科主任1名と社会科担当者2名の合計3名。中学校は社会科主任1名と社会科担当者1~2名の合計2~3名。いずれも個人回答。<br>・アンケート形式・質問項目:A4版10頁の冊子体で2013年7~8月に郵返送。質問項目は学芸大学(2009)調査に準拠<br>・回収数:小学校:152名(1校当たり平均1.9名回答,回収率約64%),中学校:38名(1校当たり平均1.3名回答)<br>3.調査結果の概要―地理教育関係項目を中心に―<br>1)大学での専攻課程・分野小学校では75%が初等教員養成課程出身者であるが,専門は「社会科以外」,「社会科」,「全科目」の順となる。その他の課程等をあわせた場合,全回答者に占める社会科を専門とする者は約3割である。中学校では,養成課程以外が75%,中等教員養成課程が24%で,初等教員養成課程はごく僅かである。専攻分野では,公民系46%,歴史系33%に対し,地理系は8%と大きな差がある。なお,教育学系との回答は11%で,地理系を上回っている。<br>2)現在の研究教科・領域:小学校では,算数(17%),国語(13%),体育(12%)の順で,社会科は総合とともに 4位(8%)である(6位の理科は7%)。中学校では,社会科(61%),道徳(16%)の順である。社会科の分野別にみると,半数以上が歴史を主研究分野とし,公民は16%,地理は13%である。<br>3)教科・分野別の困難・不安度:小学校全教科・領域の中での社会科の困難・不安度は,はほぼ中位である。なお,不安・困難度が高いのは外国語・理科・総合,低いのは算数である。中学校社会科の分野別では,歴史,公民,地理の順に困難・不安度が高くなる傾向がある。<br>4)単元別の困難・不安度:小学校では大きな差は認められないが,3・4学年の「身近な地域や市」「むかしのくらし・地域の先人の働き」,5学年の「工業生産と国民生活」「情報産業や情報化した社会の様子」で,やや困難・不安度が高くなる傾向がうかがえる。中学校では,地理的分野「世界の地域の調査」「身近な地域の調査」と,公民的分野「私たちと現代社会」で困難・不安度が高い傾向がある。なお,社会科全単元の中で最も低いのは,歴史的分野の近世・近代単元である。<br>5)社会科授業実践に関する問題認識:小学校・中学校とも,児童・生徒の校外学習活動及び教師の教材研究のための時間不足,並びに児童・生徒の社会経験不足が問題とされている。 <br>文献<br>秋本弘章・滝沢由美子・石塚耕治・平澤香・揚村洋一郎・小宮正美 2010.小学校教員養成における地理教育の現状と課題―新採用教員へのアンケート調査による分析―.新地理 58(1):33-42.岩本廣美・河合保生・戸井田克己・西岡尚也・吉水裕也 2010. 社会科地理的分野における単元「身近な地域」の実践状況―全国の中学校社会科教員対象のアンケート調査を通して―.日本地理学会発表要旨集 78:172.村山朝子 2012 社会科教育における地理の役割.E-journal GEO 7(1):11-18.<br><br>[1] アンケート分析の結果は,『学藝社会』27号(2011)と29号(2013)に掲載されている。[2] 本アンケートは,上越教育大学社会科教育学研究室が実施した2012-13年度上越教育大学研究プロジェクト研究「地域の社会科教育実践の臨床的課題と包括的改善方策」(代表:志村喬)の一環として実施された。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205694872320
  • NII論文ID
    130005473680
  • DOI
    10.14866/ajg.2014s.0_100025
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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