消防団員による津波警戒時の門扉閉鎖と緊急避難行動

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  • Manual Closing Floodgates by Firefighters and Emergency Evacuation Behavior at Tsunami Warnings

抄録

【はじめに】東日本大震災では、岩手県宮古市でも津波襲来直前まで防潮堤門扉の閉鎖や警戒活動等に携わっていた消防団員16名が殉職された。現在、被災地だけでなく日本各地で地域防災計画の見直しが行われており、命を優先した避難体制の強化が求められている。 本発表では、2012年12月7日に三陸沖で発生したマグニチュード7.3の地震に対応した消防団員の行動を考察し、岩手県宮古市で現在進められている「津波避難計画」の中の「緊急避難(レベル)」を紹介する。また、命を優先した避難体制との係りから防潮堤の門扉や乗り越し道路等のハード面についても若干の考察を加えたい。【被災地区消防団員の津波警戒時の対応行動】2012年12月7日17時18分頃に三陸沖(牡鹿半島の東、約240km付近)でマグニチュード7.3(速報値)の地震が発生し、盛岡市と滝沢村で震度5弱、また久慈市、宮古市、陸前高田市等で震度4が観測された。この地震による強い揺れを受けて、宮古市では17時18分に災害警戒本部が設置された。一方、気象庁では17時22分に青森県太平洋沿岸、岩手県、福島県、茨城県に津波注意報が発表され、宮古市での津波到達予想時刻が17時50分とされた。消防団員は、地震による揺れを感じた場合には、取り決めとして、防潮堤の門扉の閉鎖や地域住民の避難誘導等に当たるために、災害本部等からの指示を待たずにまずはそれぞれ屯所に向かう。例えば、東日本大震災の津波被災地区の宮古市新川町に立地する第一分団の分団員Aは、地震発生時17時18分に屯所と同じに町内の職場におり、道のり約130mを歩いて17時21分に屯所に到着し、屯所から道のり約50mにある「第三水門」を「1分で閉めた」という。しかし、非被災地区の仮設住宅に住んでいる分団員Bは、地震発生時17時18分に仮設住宅で夕食の準備をしており、多少片付けてから道のり約1.5㎞を歩いて22分かかり17時40分に「既に閉じられていた第三水門」に到着した。そして、屯所から道のり約290mの中央公民館まで歩いて到着し、津波到達予想時刻の17時50分に「高台避難」を完了させた。このように津波被災地区では、東日本大震災以降、被災者である消防団員の多くが非被災地区の仮設住宅等に移り住んだために、地震発生直後数分で津波警戒行動に従事できる「被災地区で生活する分団員」の人数が極めて少なくなり、被災地区に立地する消防分団の緊急時の活動が極限られた分団員で何とか維持されている。これは、消防団員の高齢化と共に看過できない問題である。【宮古市津波避難計画における緊急避難】宮古市では、地域防災計画で「消防団員は津波到達予測時刻10分前には高台に避難していなければならない」という「10分ルール」を定めた。そして、これを完了させるために20分前には防災行政無線で消防団員の避難を呼びかけることとしている。従って、宮古市では津波到達予想時刻の20分前からは浸水の恐れがある地区での消防団等による公助が基本的一時的に終了し、それ以降から津波到達予想時刻までは共助と自助で住民個々の避難が行われなければならないこととなる。2014年1月現在策定中の宮古市各地区での「津波避難計画」では、消防団の「10分ルール」に呼応する形で、地域住民の避難行動も津波到達予想時刻の20分前から「緊急避難(レベル)」に移行することが提示されている。「緊急避難」とは「津波到達予想時刻の20分前になった時点で初動避難の目標の避難場所に到達していない場合の避難行動の様式」である。約20分後に津波が到達することと、自分の体力との関係を考慮した上で、現在位置から「目標の避難場所」に到達できるかできないかを判断して、できると考えた場合にはそのままの徒歩等を続けて、できないと考えた場合には現在位置から一番近い避難ビル等の高所に逃げ込む。これは、堤防を越えた津波の動きの解析と人びとの体力に応じた避難行動の様式に基づいている(岩船 2012)。【防潮堤門扉の手動閉鎖の問題】宮古市の消防団の「10分ルール」および「緊急避難」の実施を考えた場合、漁港等と市街地との間に設置された防潮堤門扉の閉鎖はそれらを妨げる可能性が高い。例えば、津波襲来前に「船出し」を行うために港に急行したい漁業関係の「懇願」等によって、ギリギリまで門扉を閉鎖できないからだ。安全性を考慮して遠隔操作できる門扉等が開発されているが、津波襲来直前まで堤外にいる人々の「自助」での避難行動を阻害しないためにも「乗り越し道路」が少なくとも要所に一つは必要であろう。地面との比高が大きい堤防であるほど、設置に必要な用地も広くなるが、生死が懸かった究極の場面でのトラブルを未然に防ぐためにも、各自の判断で避難行動が自由に選択できる施設環境が整備されることが望ましいだろう。

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  • CRID
    1390001205696659200
  • NII論文ID
    130005473837
  • DOI
    10.14866/ajg.2014s.0_100266
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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