トリコスタチンA処理による体細胞核移植クローン胚の転写因子関連 遺伝子発現の改善について

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抄録

【目的】体細胞核移植クローン(SCNT)胚における低い発生効率の改善には,トリコスタチンA(TSA)を初めとするヒストン脱アセチル化酵素阻害剤処理が有効であるという事例がマウスなど複数の動物種で報告されているが,その理由については未解明な点が多い。本研究では,胚性遺伝子発現の観点からその機構を明らかにすることを試みた。【方法】マウスSCNT胚の作製は若山らの方法を用いて行った。SCNT胚を活性化から8時間TSA処理したのち,翌日までKSOMで培養した。遺伝子発現解析には,未受精卵および主要な胚性遺伝子の発現が開始している2細胞期胚(活性化後24時間)を用いた。発現解析はin vitro transcriptionにより増幅したRNAを使用し,44K Agilentマイクロアレイにより行った。コントロールには,遺伝子型が同一の体外受精(IVF)胚を用いた。【結果】TSA処理と無処理のSCNT胚をPrincipal component analysisにより解析したところ,処理の有無に関わらず両者は近い座標に位置し,IVF胚とは完全に分離されていた。またIVF胚との差次的発現遺伝子数においても両者で大きな差はなかった。次に,TSA処理により発現量が改善した胚性遺伝子の機能を調べるためにGene Ontology解析を行ったところ,転写因子とそれを制御する遺伝子が関連していることが明らかとなった。そこで,その中の一つであるSpi-C遺伝子のmRNAを前核期SCNT胚に導入したところ,無処理胚に比べて発生効率が上昇した(4細胞期:75.9 vs 62.1%,桑実/胚盤胞期:60.0 vs 39.7%)。またパスウェイ解析により,Spi-C導入SCNT胚ではmRNAプロセシングなどに関連する遺伝子が改善していることが明らかとなった。Spi-Cは胚性遺伝子の初期の活性化に関与することが知られており,TSA処理による転写因子の発現上昇がそれ以降の胚性遺伝子の発現パターンを正常化している可能性が示唆される。

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  • CRID
    1390282680691704448
  • NII論文ID
    130005475144
  • DOI
    10.14882/jrds.107.0_or1-23
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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