カリブ海の漁場 - 東ニカラグア、ミスキート諸島の事例 -

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • The Fishing Grounds of Caribbean Sea - The Case of Eastern Nicaragua, Miskito Cays -

抄録

1.はじめに<br> 東ニカラグア・ミスキート諸島海域には、中米最大規模のサンゴ礁海域が発達し、そこに暮らす住人のみならず、多くのものがこの豊饒な海の恩恵を受けて暮らしている。地元住人達による漁場利用に関する先行研究は、この地で優れた業績を残したアメリカ人地理学者のベルナルド・ニーチマン博士による極めて詳細で、かつ広範囲を網羅している認知地図研究がある(Nietschmann 1997)。しかしながら一方で、この残された認知地図そのものや漁場としての機能にはいまだ謎が多いとも感じる。本発表の目的は、①東ニカラグア住人による漁場利用の実例を提示し、その結果が先行研究者の提示する認知地図を読み解く一助となりうるのか否か、もしなり得るのであればどのような点であるのかを議論することである。現地調査方法は漁師たちの航行に加わって、船上で聞き取りや観察する方法をとった。<br>2.研究結果<br>1)ミスキート諸島海域の漁場利用、その概況<br> ミスキート諸島は、ミスキート族やその混血子孫たちが暮らす複数の村々が共有するこの地域では比較的大きな漁場であった。中心的な利用は、海岸部に発達した人口5万人の港町Aとその北側の湿地に位置するA~Eの5つの小規模漁村(約千人~3千人程度)と中規模の村F(人口約1万人)の一都市、6村落であった。 <br> 各村々で漁撈・漁業の対象とする生き物やその空間・利用の強度には違いがあるようであった。例えば、港町Aに隣接するA村とB村は比較的交通の便がよく、氷の入手がしやすい。大きな湖の河口に位置しており、豊富な沿岸汽水域の魚を捕獲・流通させて暮らしていた。また、極端に人口の多い港町Aや湿地によって陸上交通が未発達のD~F村では、より沖合にて巻貝やロブスターを対象とした潜水漁業や大型魚に力を入れているといった印象を受けた。主な調査地のC村だけは、アオウミガメの網での捕獲をほぼ独占的に発展させていた。<br>2)アオウミガメ漁による漁場利用<br> アオウミガメ漁師たちは一週間から10日、多い時ではそれ以上を木造船の上で過ごした。漁師たちはこの地域に広く分布するサンゴ礁が堆積する小島や比較的浅い海域を停泊拠点とし、季節ごとに異なるアオウミガメの分布・経路を見極め、なんとか過酷な漁を手短に終わらせようと専心していた。<br> 漁船の船長たちが最も注意を払っていたのは、「アオウミガメが夜眠りにつく岩」と考えられている海底の岩場(Walpa)の位置であった。船長や乗組員たちは毎日のように浅瀬の位置を変え、海面の色の変化に注意しながら、好ましい漁場を見つけては網を仕掛けた。漁が成功した時は、その岩場の位置を目印にして近隣の岩場を攻め、失敗したときは、長い航海の末に別の新しい岩場を発見し、そこでの成功を祈って網を仕掛けていた。<br>3.考察<br> 文献には、先行研究社が部分的に提示した認知地図が残っており、その中には計43ヶ所の名称がある。中でも海底のいわば(Walpa)に通ずる言葉は、20ヶ所に記載がある。<br> 本発表で提示するアオウミガメ漁に関する結果は、この岩場を重視する住人の認識を支持するものであった。ただ、得られた結果では、この岩場に関する漁師たちの認識はかなり流動的で、実際、漁師たちはその場その場で想像力豊かに「アオウミガメが夜眠りにつく岩」を生み出したり、消失させたりしていたので、認知地図での岩場に関する記載も、それほど固定的ではないのかもしれない。先行研究者が残した東ニカラグア住人の認知地図には数多くの個人名称、地形境界、Bunfka, Tiufka, Muhtaなどのよくわからないミスキート語が凝縮して平面図に投影され、非常に難解である。今後は、こうした疑問点を現地調査で更に追求していきたい。<br><br>参考:Nietschmann Bernard. 1997 Protecting Indigenous Coral Reefs and Sea Territories, Miskito Coast, RAAN, Nicaragua, in "Conservation Through Cultural Survival: Indigenous People and Protected Areas, Stanley F. Stevens (ed). Island Press, Washington.

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205694550656
  • NII論文ID
    130005481599
  • DOI
    10.14866/ajg.2014a.0_42
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ