直下型地震にみる「ずれ」と「ゆれ」とによる人的被害  ー三河地震を例にしてー

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  • The toll of the victims of the Mikawa earthquake by the surface rupture along the Fukozu fault

抄録

はじめに:地震は,岩盤に蓄積した歪みが開放される時に岩盤がずれる現象であり,地震災害の原因は「ずれ」と「ゆれ」と分けられる.中央防災会議「東南海・南海地震等に関する専門調査会」資料によると,木造家屋の場合約15軒家が全壊すると1人の犠牲者が出る.ところが,1945年に発生した三河地震では死者1人あたり全壊戸数が3.1戸と家の全壊に対して非常に多くの犠牲者がある(飯田,1978).同様な例として北丹後地震が指摘されている.ともに地震断層が出現した「ずれ」による被害がある地震である.そこで,市町村,字,家々スケールでの自然地理学的条件が犠牲者や家屋の全壊にどのような影響を与えたのかを,三河地震と「ゆれ」だけの地震である昭和東南海地震との被害を比較することで「ゆれ」と「ずれ」の被害の特徴を明らかにすることを試みる.昭和東南海地震と三河地震:1945年1月午前3時に発生した三河地震は,三河湾を震源とするM6.8の内陸直下型地震である.この地震によって,深溝断層が明瞭な地表地震断層として出現し,死者行方不明者は2300人あまりに達した.一方,1944年12月午後1時に発生した昭和東南海地震は紀伊半島熊野灘を震源とするM7.9のプレート境界型地震である.この地震の震源域は紀伊半島串本沖から三河湾沖で,死者行方不明者は1200人以上である.被害分布:昭和東南海地震の被害範囲は沿岸部を中心に愛知県全域におよぶ.特に西三河平野,濃尾平野,半島部での被害が大きい.それに対し,三河地震では西三河の狭い範囲に被害が集中する.西三河平野では昭和東南海地震と類似した被害分布を示し,それ以東では三河地震の被害の方が大きい.字レベルでの人的被害に着目すると,沖積平野内および地震断層近傍で被害が大きい.地震断層近傍である形原町で家レベルの被害に着目すると,全壊家屋は断層上盤の段丘の上で多く,下盤側で少ない.人的被害は複数の犠牲者を出した家は断層上盤側のより断層近傍に集中する傾向がある. 「ゆれ」による被害:昭和東南海地震の愛知県での家屋全壊率は震源域との距離によらない地域性がみられる.この地域性は「ゆれ」による被害の特長である.地質図と照らし合わせてみると,中新統より古い地質の上では被害が小さく,鮮新統が分布の地域は震源域から遠ざかるにつれ被害が小さくなる.更新統が分布する地域では,濃尾平野や豊橋平野では被害が少ないのに対し,西三河平野や渥美半島では被害が大きく,同じ更新世の地形面でも地域差が認められる.完新統では,濃尾平野南部,西三河平野で被害が大きく,豊橋平野では相対的に被害は小さい.以上のことから,「ゆれ」による被害は従来からの指摘どおり,堅い岩盤の上では小さく,沖積層など軟弱な地盤では大きい傾向が認められるものの,沖積層や更新統では地域差がみとめられる.これは,大礫が卓越する沖積層上では被害が小さく,細粒な堆積物の更新統の段丘で被害が大きいため,地質で説明ができる.三河地震における西三河平野での被害を検証する.沖積層の厚さ分布と比較すると,最終氷期の埋没谷沿いで被害が大きく,厚さが10m以下の地域では被害が小さいなど,大局的には沖積層の厚さと被害の大きさが良く一致する.しかし,細かくみると,沖積層が厚くても旧矢作川の自然堤防上での被害が後背湿地上の被害より小さいことや,閉塞的な環境の場所で被害が大きいなど,微地形や表層地質が影響している.「ゆれ」による被害は総合的な地質環境の影響を受ける.「ずれ」による被害:地震断層が出現した地域では,全壊家屋数に対する死亡者の数が1倍を超え,2倍に達する字もある.これは地震断層から離れた地域が概ね0.4以下になることと大きな違いがある.地震断層近傍で人的被害が大きくなる傾向は,形原における家レベルでの被害の傾向でも顕著で,地震断層から離れると複数の死者を出す全壊家屋が減少し,断層近傍で複数の犠牲者がでる全壊家屋が多い.このように地震断層近傍では他地域に対して物的被害に対して人的被害が大きい.「ゆれ」と「ずれ」による人的被害の差の要因:「ずれ」と「ゆれ」の全壊家屋に対する人的被害の差は,地震発生から全壊に至る経過時間によって生ずる.すなわち,「ゆれ」による全壊は,揺れはじめから建物がダメージを受けて壊れるまでの間に,身を守るための行動をする時間的余裕があるのに対し,「ずれ」による全壊は建物の土台が壊れるため瞬時に発生する.この土台が壊れる原因は検討を要するが,「ずれ」が原因の被害であることは間違いない.このことは同じ地震災害であっても「ゆれ」と「ずれ」とが違うメカニズムで災害に発展することを意味しており,「ゆれ」に対する減災対策が「ずれ」に対する減災対策に効果を示さない可能性を示唆している.

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  • CRID
    1390282680671168384
  • NII論文ID
    130005489921
  • DOI
    10.14866/ajg.2015s.0_100231
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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