ジオパークにおける自然保護と地域コモンズの関係

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タイトル別名
  • Nature Conservation and Local Commons in Geoparks
  • 伊豆半島ジオパークの事例から
  • Case Study of Izu Peninsula Geopark

抄録

ジオパークとは地球規模の自然多様性(Geodiversity) と地域の生態系や文化的多様性を繋ぐ場所であり、ジオパークにおける自然の長期的維持管理のため、地域社会が主体となるボトムアップ型の自然ガバナンスが求められる。ジオパークにおいて生態系や景観の多様性の持続可能なガバナンスには地域の人々の生活の中で培われてきた「伝統知」は欠かせないものであるためこのような社会の知恵の評価と、継続的な利用によって長年維持されてきた景観や生態系の科学的評価が極めて大事なことである。地域コモンズとは、「自然資源の共用管理制度、及び管理の対象である資源そのもの」(井上2008)のことであり、景観や生態系のみならず、これらの自然システムを持続可能に活かして、あるいは保護してきた地域社会の知恵、活動なども「コモンズ」として評価できる。しかしこのような事例が多数存在するジオパークにおいて環境コモンズの評価が遅れているように見える。そこで本研究は伊豆半島ジオパークにおいて長年地域社会の「伝統知」、あるいは市民による景観の保護保全運動によって守られてきた景観の事例を分析し、ジオパークでの自然保護のため「コモンズ」の重要性を論じる。伊豆半島ジオパークは複数のプレートの境界に位置するため、海底火山から陸上火山、そして小型単成火山群の活動、流れる水や海の波の作用を受けながら、多様性に富んだ地形を形成されてきた。これらの多くの地形や地形変化のメカニーズムは生物多様性・生態系機能と密接にかかわるため、古くから地域社会の中でこれらの資源を保護し、長期的に活用する動きがみられる。ここで紹介する「函南原生林」、「柿田川湧水」と「大室山スコリア丘」はそれぞれ火山活動との関係が深い。函南原生林は箱根火山の堆積物で造られた斜面に位置する独特の植物地帯で、柿田川の湧水は富士山の溶岩流の特徴から生まれた湧水群で、大室山は活火山群が造ったスコリア丘である。またそれぞれの景観と生物多様性の関係も深い。函南原生林は江戸時代から「不伐の森」として守られ、柿田川湧水は経済成長期における汚染や開発の影響で失われる危機があって初めて市民活動によって守られるようになり、大室山は多くの観光客が訪れるようになってから山の形を保ちたい気持ちが地域社会の中で働き――これらの景観においてみられる「コモンズ」的な活動・考え方も多様である。これらの事例の分析から、地域社会においてコモンズの多様性が大事なことで、このような生態系機能や生物多様性に富んだ環境システムを守ってきた伝統知やステークホルダーの多面的評価が大きい意義を持つ、といえる。またこのような社会的共通資本は、ジオパークにおけるボトムアップで持続可能な資源ガバナンスの柱として評価すべきだと指摘できる。  

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205695572864
  • NII論文ID
    130005490032
  • DOI
    10.14866/ajg.2015s.0_100331
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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