農業共済組合管内における園芸施設雪害の発生原因とその地域差

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  • Cause of Snow Damages to Horticultural Facilities and its Regional Differences in Agricultural Mutual Aid Associations

抄録

1.問題の所在と研究目的<br>   毎年全国各地で何らかの原因によって園芸施設が倒壊する被害が発生している。この発生メカニズムを地域ごとに明らかにすることは,農業者が個別的・組織的に事前対策・発生対処・事後対応をおこなうための基礎情報の提供につながる。園芸施設雪害の発生原因について,村松ほか(1998)が,①屋根雪と屋根面の凍結などの原因で屋根雪の滑落が阻害され積雪荷重が増加して発生する被害,②豪雪時の停電などにより融雪や消雪装置が機能しなくなり発生する被害,③屋根から滑落した雪を処理することを前提に設置された施設でも適正な処理が出来なかった事例,④パイプハウスは降雪する前に被覆材を撤去するなど事前の対策が不十分な事例,以上の4点を挙げている。本報告では,上記の①に関連し,園芸施設雪害の発生原因(素因)の一端を気象変化の分析によって明らかにする。<br>2.研究対象地域の選定および資料・研究方法<br>   研究対象地域は,2014年2月の降雪による園芸施設被害を受けた埼玉県,山梨県,長野県の3県とした。さらに3県の中から園芸施設を多く有する埼玉北部農業共済組合,山梨中央農業共済組合,南信農業共済組合諏訪支所の各管轄区域を選定した。また,3つの地域で共通して降雪が多かった2001年1月を比較対象とした。<br>   園芸施設被害については,農林水産省『園芸施設共済統計表』と,各農業共済組合が保有する「園芸施設共済関係資料(通常総代会提出議案)」を使用し実態把握をおこなった。これと対応させて,気象庁webサイト「各種データ・資料」を利用して降雪日時を特定し,降雪,積雪,気温の1時間ごとのデータから園芸施設被害の発生原因の検証を試みた。<br>3.2014年2月の降雪と雪害の状況<br>   2014年2月の降雪は異常な気象変化であり,各地に未曾有の雪害をもたらした。農林水産省「2013年11月~2014年7月調査結果」によると,主として降雪によって発生した園芸施設への被害は,36都道府県で85,086件に及び,農作物等の被害総額も1,765.7億円に達した。<br>4.農業共済組合管内における園芸施設被害と気象変化<br>1)埼玉北部農業共済組合管内<br>   2013年度の園芸施設被害は2,273棟に及び,棟数被害率が71.9%に達した。熊谷地方気象台によると,降雪は2014年2月8日4~23時に最大7cm/h,積雪は最大43cmになった。気温は-1.9~0.1℃で推移した。また,14日8時~15日6時に降雪があり,最大7cm/h,積雪は最大62cmであった。気温は-0.3~0.4℃で推移した。2000年度の園芸施設被害は261棟にあり,棟数被害率は5.6%であった。2001年1月の積雪は最大23cm,気温は-0.3~1.9℃で推移した。<br>2)山梨中央農業共済組合管内<br>   2013年度の園芸施設被害は362棟にあり,棟数被害率が42.0%に達した。甲府地方気象台によると,降雪は2014年2月8日4~23時に最大6cm/h,積雪は最大43cmになった。気温は-1.0~-0.3℃で推移した。また,14日6時~15日9時に降雪があり,最大9cm/h,積雪は最大114cmであった。気温は-0.7~0.3℃で推移した。2000年度の園芸施設被害は21棟にあり,棟数被害率は1.7%であった。2001年1月の積雪は最大38cm,気温は-0.2~0.6℃で推移した。<br>3)南信農業共済組合諏訪支所管内<br>   2013年度の園芸施設被害は711棟にあり,棟数被害率が18.6%に達した。諏訪特別地域気象観測所によると,降雪は2014年2月8日2時~9日1時に最大8cm/h,積雪は最大29cmになった。気温は-4.9~-2.0℃で推移した。また,14日7時~15日9時に降雪があり,最大7cm/h,積雪は最大52cmであった。気温は-4.5~-0.3℃で推移した。2000年度の園芸施設被害は208棟にあり,棟数被害率は6.5%であった。2001年1月の積雪は最大69cm,気温は-3.2~0.8℃で推移した。本管内では年度ごとの雪害率を特定することができ,2000年度には59.6%,2013年度には88.6%であった。<br>5.園芸施設雪害の発生原因とその地域差<br>   園芸施設雪害では降雪と積雪の深さに加え,降雪の時間的集中や気温の変化が注目される。研究対象地域の中でとくに雪害が甚大であった埼玉北部農業共済組合管内では,降雪時における平年の気温が相対的に高い一方で,2014年には気温が低かった。山梨中央農業共済組合管内では,降雪と積雪の深さが過去50年間で例を見ない状況であり,気温が通常より低かった。南信農業共済組合諏訪支所管内では,2014年の降雪と積雪が2001年のそれを下回ったが,雪害はおよそ3倍に達し,降雪時の気温の低さが際立っていた。雪が比較的短時間に大量に降り,気温が氷点下で推移し続けた場合,積雪が急速に増すため,雪害への対処も困難になり,被害が大きくなる可能性が示唆された。

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詳細情報

  • CRID
    1390282680671277952
  • NII論文ID
    130005490199
  • DOI
    10.14866/ajg.2015a.0_100133
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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