筋骨格モデルシミュレーションによる歩行中の股関節安定化機構に寄与する筋の検討

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抄録

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p></p><p></p><p>股関節は大腿骨頭と寛骨臼による臼状関節であり,安定化機構として,関節唇,靭帯による静的要素と,筋収縮による動的要素を持つ。安定性低下は股関節疾患の発生,進行のリスクとなる。外傷や加齢により静的要素が阻害されると,動的要素がより重要な働きを担うとされている。したがって,股関節安定化機構に寄与する筋をトレーニングすることは股関節疾患の進行予防に有効であると考えられる。遺体解剖で観察される筋の走行から安定機構に関する筋を推察する研究が散見されるが,理学療法においては動作中の動的な股関節安定化機構を考慮することがより重要であると考えられる。</p><p></p><p>本研究の目的は,歩行中の股関節安定化機構に寄与する筋を明らかにすることである。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p></p><p></p><p>対象者は健常若年成人男性11名とした。三次元動作解析装置(VICON MX),床反力計(Kistler社)を使用して歩行を計測した。関節反力,筋張力の算出には筋骨格モデルシミュレーションソフトウエアAnyBody 6.0を使用した。対象筋は,右股関節をまたいで走行する筋である,腸腰筋,小・中・大殿筋,大腿筋膜張筋,梨状筋,薄筋,長・大・短内転筋,双子筋,内閉鎖筋,外閉鎖筋,恥骨筋,大腿方形筋,大腿直筋,ハムストリングス,縫工筋とした。本研究では,前額面における筋張力を,頚体角に平行な分力(平行分力)と直交する分力(直交分力)に分解し,平行分力が股関節の安定に寄与すると仮定して分析を行った。立脚前期・後期における股関節反力ピーク時の,全筋の平行分力の総和に対する各筋の平行分力の割合,各筋の全張力に対する平行分力の割合を算出した。なお,本研究のデータは第50回日本理学療法学術大会にて報告したものを再分析したものである。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p></p><p></p><p>全筋の平行分力の総和に対する各筋の平行分力の割合は立脚初期で中殿筋後部(41.4%),前部(13.6%),大腿二頭筋長頭(8.4%),立脚後期では中殿筋前部(20.9%),大腿直筋(18.2%),中殿筋後部(9.8%),腸骨筋(9.4%)の順であった。</p><p></p><p>各筋の全張力に対する平行分力の割合で90%以上の高値を示した筋は,立脚初期で中殿筋,小殿筋,大殿筋,梨状筋,短内転筋,恥骨筋,腸骨筋,双子筋,大腰筋,立脚後期で,中殿筋,小殿筋,長内転筋,大内転筋,短内転筋,恥骨筋であった。</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p></p><p></p><p>本研究の結果から,立脚相にて中殿筋は股関節安定化に最も大きく関与していることが明らかとなった。また,歩行中に活動する股関節周囲筋の多くは立脚相において,全張力における平行分力の割合が高く,安定化に寄与することが示された。</p><p></p><p>本研究の限界は各筋単独の張力の方向のみで股関節安定化への寄与を分析している点であり,今後は筋間の協調作用を含めた分析を進め,動的な股関節安定化を高めるためのトレーニングについて検討を進める必要がある。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205578145792
  • NII論文ID
    130005608571
  • DOI
    10.14900/cjpt.2016.0492
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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