カナダ,オンタリオ州における言語使用状況とフランス語話者のアイデンティティ象徴体系

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • Language situation and identity symbols of francophones in Ontario, Canada

抄録

1.はじめに  <br>  英語とフランス語を公用語とするカナダでは,人口の2割強がフランス語を母語とし,その多くは東部のケベック州に居住している。しかし,ケベック州以外にもフランス語を母語とする住民(以下,フランス語話者)は居住しており,ケベック州に次いで多くのフランス語話者が住んでいるのはオンタリオ州である。オンタリオ州には,カナダ最大の都市で州都のトロントをはじめ,オンタリオ湖,エリー湖,ヒューロン湖に囲まれた半島状の地域にカナダを代表する大都市が南部に数多く立地し,州人口は1200万を超え他州と比較して飛び抜けて大きい。そのため,オンタリオ州に居住するフランス語話者の割合は約4%にすぎないが,約50万の人々がフランス語を母語としている(単一回答のみ)。オンタリオ州ではフランス語は公用語とされていないが,1986年のフランス語サービス法(French Language Services Act)の制定以降,指定地域ではフランス語による公的サービスが提供され,アイデンティティ象徴体系の整備とその認知も徐々に進んできた。本報告では,まず2011年の国勢調査に基づいてオンタリオ州における言語使用状況を明らかにし,さらにフランス語話者のアイデンティティ象徴体系を検討する。 <br> 2.オンタリオ州における言語使用状況  <br>  英語が優勢なオンタリオ州においてフランス語を母語とする人口の割合が高いのは東部と北部である。国勢調査基本統計区(郡スケール)においてもっとも割合が高いのは,連邦首都オタワの東に位置し,ケベック州境に接するPrescott and Russell合同郡であり,65.4%がフランス語を母語としている。それに次ぐのは北部のCochrane地区であり,フランス語を母語とする人口が45.4%をしめる。市町村スケールとなる下位統計区では,Cochrane地区に属するMattice-Val Cotéの90.4%を筆頭に,20の下位統計区でフランス語を母語とする人口が過半数をしめ,85の統計区で10%を超えている。その多くは小規模の自治体であり,1万を超える人口を擁する下位統計区でフランス語を母語とする人口の割合が10%を超えるのは17のみである。  <br>  一方,非公用語を母語とする人口の割合が高いのは南部の基本統計区である。トロントとその郊外であるYork地域自治体,Peel地域自治体では非公用語を母語とする人口が45%を超えている。トロントとYorkでは中国語話者,Peelではパンジャブ語話者が最大の非公用語集団である。  <br>  公用語能力では,フランス語を母語とする人口の割合が高い基本統計区で二言語話者人口の割合が高くなる傾向にあるが,オタワやグレーターサドバリーなどの都市的地域では両者の差が比較的大きく,フランス語以外を母語とする者で二言語話者となる者が多いことを示唆している。 <br> 3.フランス語話者のアイデンティティ象徴体系<br> 1960年代以降,カナダからの分離・独立をも視野に入れた活動が活発化するケベック州で「ケベコワ」アイデンティティが強まっていったことが背景に,オンタリオ州のフランス語話者は「フランコ・オンタリアン」というアイデンティティをもつようになった。1975年9月25日にサドバリーでフランコ・オンタリアンの旗が初めて掲揚され,のちに9月25日はフランコ・オンタリアンの日とされた。フランコ・オンタリアンの集団歌も作成され,旗は関連施設ではためいている。ケベック州や沿海諸州のフランス語話者の象徴体系の多くがカトリックと関連するものであるのに対して,フランコ・オンタリアンのそれは世俗的であることに大きな特徴がある。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680671074048
  • NII論文ID
    130005635633
  • DOI
    10.14866/ajg.2017s.0_100164
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ