山岳科学の世界展開と日本の現状・課題

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  • Direction and development of world's mountain science and the current status and issues of mountain science in Japan

抄録

海外の山岳科学 <br> 山岳科学に関連して,過去数10年間に,海外では多様な活動が行われてきている。国際地理学連合に関連した活動一つを例にあげても,カール・トロールと共に山岳コミッションをリードしてきたジャック・アイブスとブルーノ・メッセルリが世界各地で研究プロジェクトを展開し,山岳科学に関連した2つの国際学術誌を創刊し,いわゆる地球サミットで1992年に採択された「アジェンダ21」の中に,第13章として山の章(脆弱な生態系の管理:持続可能な山地開発)を設け,その10年後(2002年)の国連・国際山岳年(International Year of Mountains: IYM)の実現を促した。彼らは,ヒマラヤを中心とする南アジア地域の山岳環境問題を扱う,国際総合山岳開発センター(ICIMOD)の設立にも貢献し,同様のセンターが,アフリカ(African Mountain Association)と南米(Andean Mountain Association)にもつくられた。1997年には国際的ネットワークであるマウンテン・フォーラム(Mountain Forum)ができた。2002年のIYMを契機に,12月11日が国際山の日(International Mountain Day)となり,毎年異なるテーマを設定して山岳地域の問題を国際的に考える仕組みとして50カか国および多数の国際機関からなるマウンテン・パートナーシップ(Mountain Partnership)が設立された。<br> また,5年に1回スコットランド・パースで開かれている山の国際会議では,2010年と2015年の研究発表とを比較して,従来からの観察に基づく研究や保全を中心とした研究から,学際的研究や「変化」に焦点を充てた研究に移行してきていることが分析されている(Gleeson et al 2016)。一般的には,多くの国際的な山岳研究は,ここにきてFuture Earth(フューチャー・アース,)を強く意識したものが急増しているものと思われる。多くの国際的な動きの中で,例えば,Future Earthのコア・プログラムの一つである全球陸域研究計画(GLP)の直近のSSC会議では,Mountainsというワーキング・グループが設けられ,山を核にしてLand Scienceを進めていくことが合意されている。   <br> 日本の現状と課題 <br> 山岳国家である日本においては,従来から多様な研究が山岳地域で盛んに行われてきた。また,2002年のIYMを契機に,研究者と市民(登山者の集まりからなる山岳団体,NGOなど)や公的機関との間で交流がある程度行われるようになった。しかし,そこでは,中高年齢者ばかりが関与していた。<br> 特に最近は,日本の大学では,山に関わる学生・若手の著しい減少が深刻になってきている。これでは,山岳宗教をはじめとする多様な学問領域を維持することさえ困難になってしまう。  また,山岳地域の管理などに関わる人たちの高齢化の問題も顕著である。土地所有者の立場としての監督者である林野庁や都道府県・市町村,あるいは国立公園などでは環境省らが山岳地域の管理を行っているが,現場においては,地元山岳団体や環境NGOの役割が極めて大きく,こうした組織においても高齢化が大きな問題となっている。日本の登山者の年齢が過去数10年間にわたり中高年層に大きく偏っていることが指摘されているが,この数年に限ってみれば,「山ガール」から拡大した若年齢層の登山者もごくわずかではあるが増えてきていることが注目され,山岳地域の管理へのその「取り込み」を考えねばならない。<br> 今後,少子高齢化のさらなる進行が予測されている日本において,山岳科学に関わる次世代の研究者の育成は急務の課題であるとともに,管理者・利用者側でも若年齢層の関与を拡大させることが重要になる。年齢構成を考えた組織をつくらなければ,持続的な山岳社会はできない。山岳科学の世界においては,まず,次の世代の人材を確保すること,そして次に人材育成を進めることが求められる。海外では主要な山岳研究がFuture Earthと結びつくようになってきているのに対して,日本ではまだ具体的な動きさえない。国際的な視野に立って活動ができる若手を確保・育成していくためにも,さまざまな国内問題の解決のためにも,これからの日本の山岳科学の枠組みを基礎から考えて行くことが重要であろう。2017年度には,国内の複数大学で大学連携山岳科学学位プログラムが始まり,その成果が期待されるが,より多くの国内外の大学で山岳科学が受講できるよう,たとえばeラーニングの整備などが求められる。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205695247232
  • NII論文ID
    130005635793
  • DOI
    10.14866/ajg.2017s.0_100337
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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