グラーツ市における持続可能な都市開発戦略

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  • Sustainable Urban Development Strategies in Graz, Austria

抄録

ヨーロッパにおいては、1993年のEU発足以降、EUとしての様々な地域政策が立案・実施されたことにより、国家の領域を超えた地域再編が進展している。一方、1980年代以降の資本と労働のグローバルな再配置にともなう都市空間の変容は、単線的でなく都市の自立性に応じ複線的な過程をたどることが明らかになってきている(似田貝ほか, 2006)。こうしたなかで、EUによる経済統合・政治統合が進むヨーロッパにおいては国家の領域内外における地域再編・地域統合が推進されることにより、国際的な都市間競争が激化している。 このような都市間競争は一般に、都市間格差の拡大と都市内部地域格差の拡大をもたらすとされるが、オーストリアにおいてはWeichhart(2001)やPromberger et.al.(2007)が指摘するように、2000年代以降も中小都市の都市機能の維持や成長が確認されている。しかしながら、オーストリアの中小都市に関する人文地理学的研究は、ドイツ語圏の研究者によるものも経済地理学的研究が中心となっており、その多くは個々の都市を取り巻く社会空間構造の特性および都市間競争の空間的側面が十分には考慮されていない。 以上のことから、本研究の目的は、近年のグローバルな都市間競争を念頭にしたオーストリアの地域計画において、広域連携に基づく地域再編プログラムが実施される中で、中小都市がいかになる対応をしているのかをグラーツ市の都市開発戦略を事例に検討することにある。 <br> グラーツ市は、オーストリアのシュタイアーマルク州の州都で、人口約28万2千人(2015年12月末現在)でウィーン市に次ぐオーストリア第2の人口規模を持つ都市である。グラーツ市の人口は2000~2015年に約5万6千人増加した。このうち、かなりの割合が外国人人口によって占められており、近年はルーマニアおよびクロアチア国籍の人口増加が顕著である。主要産業としては自動車工業、電気機械工業、製紙業などの集積が見られる。また、1999年に旧市街地区の街並みがユネスコ世界遺産に登録されて以降、2000~2014年に宿泊者数が1.65倍に増加するなど観光産業の成長がみられる。 現在のグラーツ市の都市計画は2013年に策定された都市開発構想に基づくものであるが、これはそれ以前に策定された1990年の開発構想および、2001年の開発構想との関連で理解する必要がある。また、より広域の計画である州空間整備法および州開発計画との整合性も求められる。さらにEUの地域政策も念頭に置く必要がある。 グラーツ市では、1995年のオーストリアのEU加盟直後の1996年からEU基金に基づく都市再生プログラムURBUN Iを獲得し、2001年からはその後継プログラムURBUN Ⅱを、2007年からは、さらにその後継プログラムURBUN Plusを実獲得している。このほか、URBACT Ⅱと呼ばれるEU内の都市ネットワークのうち、統合的地域開発および歴史的都市景観に関するネットワークで主導的な役割を果たしている。また、以上の統合的都市開発プロジェクトのほか、2002年以降、持続可能な都市交通に関するEUの開発プロジェクトも獲得している。 これらのプロジェクトを獲得する際に、グラーツ市はEUの地域政策の中心的理念である持続可能な開発、すなわち、環境、経済、社会の持続可能性を十分に配慮した計画の策定とその実施を明確に打ち出した。併せて、2003年の欧州文化首都プロジェクトの対象都市に選定されたこと契機に建設された現代美術館およびムーア川の人工島を象徴的に利用するなどして文化都市イメージの定着を図っている。 グラーツ市では、今後も人口増加と経済成長が継続すると予測しており、遊休地の開発および土地利用の高度化により、産業系および住居系の土地利用需要に対応することを計画しているが、持続可能な開発と文化都市イメージから構成される生活の質をより高める都市を計画目標に掲げることで、住民や多くのステークホルダーの合意を形成し、都市間競争に臨んでいると見ることができる。  <br>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205695271424
  • NII論文ID
    130005635808
  • DOI
    10.14866/ajg.2017s.0_100290
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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