チベット文献において言及される世親の『法華論』

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  • Vasubandhu’s Commentary on the <i>Lotus Sutra</i> in Tibetan Literature
  • Vasubandhu's Commentary on the Lotus Sutra in Tibetan Literature

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抄録

<p>世親(Vasubandhu)の『法華論』は,二つの漢訳が現存するのみであり,その原典は現存せず,インド資料からその痕跡を確認することはできない.また,そのチベット語訳については,現存しないものの,目録にはその記録が残されている.すなわち,『デンカルマ目録』にはないものの,『パンタンマ目録』と後伝記の bCom ldan ral gri(1227–1305)による目録に記録されている.ただし,Bu ston(1290–1364)の目録では,同論は「探されるべきもの」の項目に収められており,13世紀中頃には失われていたことを示している.また,中国でまとめられた『至元録』には,二つの漢訳とともにチベット語訳が存在したことを示している.これらの根拠は単一の情報に由来するものであろうが,『法華論』のチベット語訳がかつて存在したことを示している.ただし,それは必ずしもインドで書かれた原典の存在までを示唆するものではないが,チベット人は世親の『法華論』の存在を認識していたことは明らかである.</p><p>また,テンギュルの経疏部に漢文からのチベット語訳として収録されている基の『法華玄賛』のチベット語訳からも『法華論』のチベット語訳断片を収集することができる.基は法相宗の立場から『法華経』を解説しており,そこに世親の『法華論』が言及されることは当然である.その一方で,抄訳であるチベット語訳は,引用に対する翻訳を省略する傾向にある.その中で,チベット語訳における「論云」(’grel pa las)の50例をすべて確認してみた.その最初の用例において,著者名が言及されない「准論」を,チベット語訳者は「ヴァスバンドゥにより」と翻訳している.このことから,チベット語訳者は「論」を『法華論』と認識していたことがわかる.また,その41例を『法華論』に確認することができ,これらの言及は,漢訳からではあるものの,『法華論』のチベット語訳断片となる.</p>

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