管理方法や環境条件の空間的な不均一性が伝統的な半自然草地に おける植物種の多様性を維持する

  • 丹野 夕輝
    静岡大学大学院総合科学技術研究科農学専攻 岐阜大学大学院連合農学研究科
  • 山下 雅幸
    静岡大学大学院総合科学技術研究科農学専攻
  • 澤田 均
    静岡大学大学院総合科学技術研究科農学専攻

書誌事項

タイトル別名
  • Spatial heterogeneities in management regimes and the environment maintain plant species diversity in traditional semi-natural grasslands
  • カンリ ホウホウ ヤ カンキョウ ジョウケン ノ クウカンテキ ナ フキンイツセイ ガ デントウテキ ナ ハンシゼン クサチ ニ オケル ショクブツシュ ノ タヨウセイ オ イジ スル

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抄録

静岡県中西部の茶草場(茶園の敷草を刈るための半自然草地)と棚田畦畔には、希少種を含む多くの草本種が生育している。しかし近年、管理放棄や他の土地利用への転換により面積の縮小と分断化が進行している。そのため早急に草本群集の現状を把握し、適切な保全対策を講じる必要がある。本研究では、静岡県中西部の茶草場15か所と棚田畦畔2か所を対象として、生育地タイプ間の管理方法の差異や生育地内の環境条件の不均質性が、地域全体での植物種の多様性の保全上どのような役割を果たしているかを多様性分割(Additive diversity partitioning)を用いて明らかにすることとした。結果、生育地タイプ(茶草場/棚田畦畔)間β-多様性および(生育地タイプ内)調査地間β-多様性の貢献度(それぞれ31%および46%)が大きいことが明らかになった。NMDS(Non-metric multidimensional scaling)の結果、茶草場と棚田畦畔の種組成は明確に異なることが示され、年間1回草刈りされる茶草場は大型の多年生植物に、年間5回草刈りされる棚田畦畔は一年生植物や小型の多年生植物に特徴付けられた。更に、生育地タイプ内の種組成の変異は、茶草場では土壌含水率、硝酸態窒素含量およびカルシウム含量といった土壌条件の差異によって説明できることが明らかになった。棚田畦畔では2つの微生育地タイプ(斜面とそれに隣接した平坦面)が認められ、草刈り以外の撹乱を受けない斜面では多年生植物の出現頻度がやや高く、畦塗り(畦畔の補修作業)に伴う土壌撹乱や踏圧も受ける平坦面では夏生の一年生植物が優占した。これらの結果から、この地域では、土壌条件および草刈り方法などの撹乱レジームの違いに応じて異なる種が生育することで、高い種多様性が維持されていると考えられた。この地域の草本の種多様性を保全するには、茶草場と棚田畦畔においてそれぞれ適切な伝統的管理方法を継続していくこと、特に茶草場では土壌条件の不均一性を確保するためにもある程度の面積を維持していくことが重要だと考えられる。

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