軽度脳血管性痴呆でpacing障害を伴い転倒を繰り返す患者への認知リハの試み

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抄録

【目的】近年pacing障害による転倒リスクが注目されている。今回我々は,脳血管性障害があり軽度の痴呆を有する患者で、行動観察上明らかにpacing障害が疑われ転倒を繰り返している症例に対して、集中的な認知リハの検査・訓練を行ったので、その結果に考察を加え報告をする。<BR>【対象】86歳の女性、2002年2月慢性硬膜下血腫除去術施行(後遺障害はなし)。その後老健入所にて経過していたが、落ち着きなく動き回り、週3回程度の転倒を繰り返していた。2004年4月当院へ入院し脳血管性痴呆と診断されるが、当院入院後も6ヶ月で16回の前方への転倒を繰り返し、対策を求められていた。<BR>【検査】(1)机上テストによる注意機能評価1)書字検査2)図形検査3)TMT-A・B4)PASAT(2)ADL 上での行動評価1)50m歩行タイム2)B・I (3)知的評価1)HDS-R2)MMS3)WMS-Rをベースライン(2回の平均値)・訓練開始時・開始後1ヶ月・終了時(2ヶ月)・終了後の1ヶ月と2ヶ月に施行し,経過観察を行った。尚、(2)1)50m歩行タイムは、ADLの中における無意識下でのタイム測定を行った。<BR>【認知リハ実施方法】(1)トランプ分類(トランプの4種類のマーク別に並べていく。)(2)言語的統制法(自己教示法)50m歩行でリズムを取りながら行う。同時に歩容についても言語的指示を行う。訓練は20日間区切りで1)検者が声を出しリズムを取る。2)対象患者が声に出しリズムを取る。3)声を出さずにリズムを意識してもらいながら行うとし、訓練終了毎にフィードバックを行った。<BR>【結果】(1)机上テストにおける注意機能評価の結果で、訓練開始1ヶ月後、ベースラインと比べ図形検査が約23秒、書字検査が約7秒延長しており、それ以降もデータは維持されていた。他の検査においては特記すべき変化は見られなかった。(2)ADL上での行動評価の結果、50m歩行タイムが、ベースラインと比べ開始1ヶ月後約11秒延長し、終了2ヶ月後も維持されていた。B・Iは階段が自立し、5点upした。(3)知的評価の結果はHDS-R・MMS共に変化は見られず、軽度痴呆レベルで推移した。(4)転倒回数は訓練開始前6ヶ月間で16回、訓練開始から最終評価時点5ヶ月で3回、以降の6ヶ月で1回と減少が見られた。<BR>【考察とまとめ】本症例は転倒を頻発し脳血管性痴呆と、pacing障害を認めたケースである。pacing障害に対する認知リハの訓練方法としてはトランプ分類と50m歩行での言語的統制法(自己教示法)を用い、歩行姿勢の声かけやフィードバックを行った。結果、知的評価の変化は見られなかったが、机上テストのpacing 障害検査で若干の改善が見られた。またADL上での行動評価では歩行スピードが緩徐となり性急さが減少、歩容の改善も見られ、転倒回数が大幅に減少した。階段昇降やトランスファーの場面でもゆっくりとした確実な行動が見られ、pacing障害における動作の性急性(転倒リスク増大)に対し、認知リハの有効性が示唆された。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205623695232
  • NII論文ID
    130006983941
  • DOI
    10.11496/kyushuptot.2005.0.78.0
  • ISSN
    24238899
    09152032
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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