左手はなぜ使いにくいのか?

DOI
  • 納富 亮典
    社会医療法人財団白十字会 白十字病院 作業療法課
  • 原 麻理子
    社会医療法人財団白十字会 白十字病院 作業療法課
  • 飯盛 美紀
    社会医療法人財団白十字会 白十字病院 作業療法課

書誌事項

タイトル別名
  • ~右脳梗塞の1例~

抄録

【はじめに】<BR> 右の広範な脳梗塞後,左手に非所属感,無目的な運動,物品操作時の拙劣さと握り込みを認めた症例に対し,外言語化による左手の運動を導入した結果,改善がみられたため,考察を加え報告する.尚,症例と家族には発表に際し文書同意を得た.<BR>【症例紹介】<BR> 80歳代,女性,右利き.診断名:心原性脳塞栓症.Br-stage:左上肢・手指・下肢共にV.感覚:左上下肢表在・深部覚共に重度鈍麻.左手に強制把握あり.FIM:44点.<BR>【MRI・FLAIR所見】<BR> 右頭頂葉・後頭葉・前頭葉内側,脳梁全域に高信号.<BR>【神経心理学的所見】<BR> MMSE:24/30点.BIT通常検査:14/146点,行動検査0/81点.数唱:foward5桁,backward4桁.聴覚性検出課題:正答率84%,的中率45%.記憶更新課題:3スパン正答率13%.PASAT:2秒条件3%.FAB:4/18点.Kohs立方体:不可.SPTA:拙劣さあるが命令・模倣動作とも可能.VPTA:錯綜図5/6,未知相貌の異同弁別7/8.<BR>【左手に関する症状】<BR> 無目的に動く.左手に対して「隣の人の手」「この人,静かにしなさい」といった発言をする.物品操作では,リーチのずれ,Preshaping・shapingの拙劣さ,握り込みを認める.日常生活での使用は乏しい.<BR>【介入・経過】<BR> まずは外言語化による無目的な運動の抑制を試みた.また,「誰かの手」と言う左手の非所属感,左手の低使用,握り込みに対し,右手の運動抑制と左手の運動拡大を目的に,物品の握り・離しの単純動作を徒手的に誘導しながら実施した.自室内環境としても,ベッドでの寝返り方向,テレビ,棚の位置を左方向へ変更し,病室内の導線(トイレ,洗面台,廊下まで)をマーキングし,左空間への視覚探索・動作機会の増加を促した.左手への注意向上がみられた頃より,両手動作の練習を開始した.まずは手洗いなどの簡単な慣習動作から開始し,セルフケア,簡単な生活関連動作へと進めた.結果,セルフケア場面での左手の使用の増加や,外言語化による自己調整が可能となり,内観も「誰かの手」から「自分の左手」へと変化した.<BR> 発症5ヶ月後にはBr-stageには変化はないものの,神経心理学的所見は,MMSE:24点,BIT通常検査:130点,FAB:8点,ADLはFIM:103点となり,歩行・整容・更衣・排泄動作は自立となった.<BR>【考察】<BR> 本症状は左手の非所属感,無目的な運動より,posterior typeのalien hand syndromeと考えられた.病巣は広範な右半球と脳梁にあり,左手の情報と行為の中枢である左脳との連絡が絶たれたことによる症状と考えられ,非所属感や無目的な運動が生じた左手に対し,外言語化による左手の情報伝達と運動指令の再学習は有効と思われた.

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680602181504
  • NII論文ID
    130006985656
  • DOI
    10.11496/kyushuptot.2011.0.11.0
  • ISSN
    24238899
    09152032
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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