群れサイズの小さな野生チンパンジーにおける母系遺伝子系譜構成の偏り Skewed matrilineal genetic composition in a small wild chimpanzee community

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[目的]一般的にはチンパンジーではメスが群れ間を移籍し,遺伝子流動を担っている。ところがギニア共和国ボッソウの群れでは1976年観察開始以来メスの移入は観察されていない。本研究はボッソウ群全個体の母系関係を明らかにし,遺伝的な多様性および群れの移出入に関する行動への影響への手がかりを示すことを目的とした。<br>[方法]ボッソウ群では,1976年観察開始時に母親から独立して行動していたのは7個体のメスと1個体のオスであった。我々はこれら記録上の全母系について,母系遺伝するミトコンドリアDNAのタイプを決定することにより,遺伝的な関係を推定した。<br>[結果]観察開始時独立個体のうちメス3個体とオス1個体が同一のタイプ(メジャータイプ)であり,現在まで常に最大個体数(約半数)を擁していた。その他の4個体のメスに由来する母系はそれぞれ別々のタイプであったが,そのうち1母系タイプは2004年に絶え,残りの3母系タイプを構成するメスは少数かつ繁殖可能年齢を過ぎており,次の世代には伝わらないと考えられる。<br>[考察]仮にメジャータイプの共通祖先がボッソウ群の個体自身が母系血縁関係を認識できるほど近くインセスト回避すると想定すると,そのような想定がない場合に比べ,群れ内の交尾相手候補個体数対競争相手個体数はオス個体ではメス個体の10倍減少(つまり異性が減少し同性が増加)することがわかった。従来までの個体記録によると,ボッソウ群にメスの移入がないばかりか,オスも移出している可能性が示唆されている。また,他の群れに比べインセストを回避する傾向が薄いことを疑わせる行動観察記録も存在する。本研究はボッソウ群において,個体数の小ささだけでなく,母系の組成の偏りがミトコンドリアDNAタイプの急激な減少をもたらすとともに,群れを移出や性行動に影響を与えている可能性を示した。<br>[文献]Folia Primatol 80: 19-32(2009)

Journal

  • Primate Research Supplement

    Primate Research Supplement 25(0), 21-21, 2009

    Primate Society of Japan

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