社会の学としての霊長類学

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霊長類が「社会的」な存在であることは、霊長類の研究をおこなうすべての人が認めるところであろう。日本霊長類学の初期においては、社会の理解を目指していたと言っても過言ではない。しかしながら、その後の社会生物学の勃興と発展の中で、霊長類社会の限られた側面しか語られなくなってしまった。言い換えれば、社会の多様で複雑な側面はある意味で置き去りにされてきたと言えるのではなかろうか。<br> たとえば、個体に分解してしまっては理解しきれない社会をどう捉えるべきか、という初期日本霊長類学が提示した問題は、いまだにきちんと理解されないまま取り残されてしまっている。数十年遅れて、一部の欧米の研究者がこのような事象に関心を寄せ始めているが、近年の日本霊長類学においてはそうした問題への関心は薄い。<br> 社会学や哲学、文化人類学など、人間社会については、さまざまなアイディアとアプローチの下で研究がなされてきた。そして、どのように社会を捉えるかによって、対象の理解、現象の解釈はより深く豊かになったように思われる。しかし、霊長類の社会現象の場合は、アプリオリに生物学的な還元主義を適用せねばならないことになってしまってはいないだろうか。生物学的なアプローチが有効かつ必要であるのは間違いないが、ヒト以外の霊長類の生活世界についての深く豊かな理解を目指すために、霊長類学は様々なアプローチを模索すべき時期に来ているのかもしれない。<br> 本自由集会では、社会の捉え方の違いによって、具体的にどのように対象の理解が可能になるのかを、それぞれの視点から話題提供をしていただく。もう一度霊長類の「社会」についての幅広い議論が展開できるようになればと考えている。<br><br><話題提供者・コメンテーター><br>西江仁徳(京都大学大学院理学研究科)、北村光二(岡山大学文学部)、中川尚史(京都大学大学院理学研究科)、伊藤詞子(京都大学大学院人間・環境学研究科)、田代靖子(林原生物化学研究所・類人猿研究センター)、中村美知夫(京都大学大学院理学研究科)

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  • CRID
    1390001205635703296
  • NII Article ID
    130006998224
  • DOI
    10.14907/primate.23.0.7.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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