マイクロサテライトでの突然変異率に対する原爆放射線の遺伝的影響は検出されなかった。

DOI
  • 小平 美江子
    放射線影響研究所 遺伝学部
  • 梁 治子
    大阪大学大学院医学系研究科遺伝医学講座・放射線基礎医学 医薬基盤研究所
  • 高橋 規郎
    放射線影響研究所 遺伝学部
  • 鎌田 直子
    放射線影響研究所 統計部
  • 古川 恭治
    放射線影響研究所 統計部
  • 中島 裕夫
    大阪大学大学院医学系研究科遺伝医学講座・放射線基礎医学
  • 野村 大成
    大阪大学大学院医学系研究科遺伝医学講座・放射線基礎医学 医薬基盤研究所
  • 中村 典
    放射線影響研究所 主席研究員

書誌事項

タイトル別名
  • No Evidence of Mutation Induction at Microsatellite Loci by Parental A-bomb Exposures

この論文をさがす

抄録

マイクロサテライトは多数の少数塩基が縦列に並んだ反復配列であるが、生殖細胞での反復数の突然変異率が高いことが知られている。今回、原爆放射線の継世代影響を調べるために、40のマイクロサテライト遺伝子座を選び、線量の高い原爆被爆者家族の子供66人(両親が被爆者である子供は4人)、線量の少ない家族の子供63人について、突然変異の検索をおこなった。この調査では、被曝した親の70の配偶子(平均被曝線量 1.56 Gy)での2789のマイクロサテライトのアリルと、非被曝の親の188配偶子での7465アリルを検査したことになる。<BR> マイクロサテライトの突然変異は反復回数の増減によるアリルの長さの変異として検出できる。従って、突然変異の検出のために、マイクロサテライト領域をPCRで増幅し、キャピラリー電気泳動で解析後、親子のアリルの長さを比較して、親と異なる子供のアリルを検索した。1次スクリーニングは各親子のリンパ芽球永久細胞株からのDNAを用いて行った。リンパ芽球永久細胞株では、マイクロサテライトの突然変異が生じやすい事が知られているので、検出した突然変異は、未培養の細胞からのDNAを用いて確認した。その結果、被曝群の子供に20例、対照群に17例の突然変異を検出した。<BR> 被曝群20例の突然変異のうち、7例は被曝した親に由来するが、4例はそれらが被曝した親に由来するか否かを決定することができなかった。「被曝が突然変異を誘発する」かどうかを評価するために、この4例すべてが被曝した配偶子での突然変異と仮定した最も高い被曝配偶子での突然変異率と対照群の突然変異率の比較をおこなった。この場合でも、配偶子当たりの突然変異率は、被曝群では0.39% (7+4/2789)、非被曝群では0.35% (26/7465) であり、この差は統計的に有意ではなかった(p=0.7134)。この結果は、放射線の急性一回被曝によって、マイクロサテライトでの突然変異率が増加する可能性は低いことを示唆している。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ