USCAR文書からみた米軍統治とコザ

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書誌事項

タイトル別名
  • The U.S. Military Governance over Koza Disclosed in the USCAR Documents
  • Public Health, Urban Politics, and Social Disorder
  • 公衆衛生、都市政治、社会的無秩序

抄録

<BR> 発表者は、過去数ヵ年の間、復帰前の沖縄を事実上統治した琉球米国民政府(以下USCAR)に関係する文書を、沖縄県および米国で収集し、沖縄における米軍統治が、どのように沖縄の地方政治に影響し、それを形成してきたかを検討してきた。本報告では、USCAR文書をもとに、戦後沖縄における米軍統治の実態と地方政治の形成、とりわけ、嘉手納空軍基地が立地する沖縄県旧コザ市(現沖縄市)における、公衆衛生、都市政治、社会的無秩序といった諸問題について、その背景と内的相互関係を検討する。<BR>  米軍は基地周辺で拡大する売春(性病感染源)の管理を、沖縄側に実施させるために、売春を媒介する飲食店・風俗店、ないしその集積地区に「オフ・リミッツ」(米軍要員立ち入り禁止措置)を適用した。米軍基地に経済的に依存する店舗や地区は、オフ・リミッツの解除を求め、また適用を恐れて、店舗や地区の衛生状態を改善し、売春を管理下におくようにした。1960年代に入ると、より広義の公衆衛生管理措置として「Aサイン」(米軍要員相手の営業許可)制度が整備される。沖縄側の業者が、米軍要員相手の営業を行うためには、Aサインの交付を受ける必要があった。Aサイン制度を担った全軍風紀取締委員会は、性病感染源として報告された店舗や地区にAサインの取り消し、すなわちオフ・リミッツを適用し、個別業者、地区別の業者組合、さらには市町村に公衆衛生条件の改善を事実上強制した。<BR>  飲食店・風俗店など基地経済に依存する業者は、当初は上述のような米軍の強制措置に対して不満を持っており、1950年代から高まっていく反米世論とともに、社会大衆党など革新政党の地盤を支えた。コザ市でも、1958年から16年にわたり、大山朝常による革新市政が続いた。大山市政に関するUSCAR文書は、大きく三つに区分できる。第一は、革新地盤であるコザ市への米軍物資の払い下げや、USCARによる財政支援の是非を検討した文書である。第二は、大山市長の「反米的」言動を報告する文書である。そして、第三は、コザ市選出の桑江朝幸琉球政府立法院議員(親米保守派) とUSCARとの関係を示す文書群である。これら文書から確認できるのは、USCARが、基地所在市町村における親米勢力と協調し、反米勢力を牽制していた事実である。コザ市においては、米軍に対して沖縄側が親米(保守)と反米(革新)に分裂し、錯綜した(しかし、米軍駐留には有利な)政治的対立構造を形成したのである。<BR>  外国軍隊の存在はそれを受け入れる地域社会を、主権(人権)の空隙ともいうべき、一種の例外的状況に置く。そうした状況がもたらす一つの局面が、先にも述べた、米軍要員を対象とする沖縄女性による売春の存在である。USCAR文書には、オフ・リミッツ関係文書以外にも、基地周辺に形成された「特飲街」における売春摘発に関する文書が散見され、軍事占領・統治下での性労働がどう空間的に編成され、管理されていたかを確認できる。米軍が駐留する例外空間では、米軍要員間の人種(白人対黒人)関係も、「特飲街」における人種・空間的セグリゲーションに反映した。こうした米軍統治に対する沖縄住民の抵抗は、多くの場合、組織的・非暴力的であったが、1971年ごろ、コザ市をはじめとする沖縄島内でしばしば社会問題化したのは、タクシー運転手と米軍要員との衝突であった。やがてそれは同年12月の「コザ騒動」の勃発へとつながる。USCAR文書は、支配者の視点からとはいえ、これら一連の歴史・空間的過程を詳述している。<BR>  このように、USCAR文書を読み取ることによって、旧コザ市をめぐる米軍統治の本質には、コザ市の従属化、分割支配、例外化という三つの局面があったことがわかる。もっとも、これら局面は、現在においてもなお、沖縄県に米軍を集中駐留させる因子であり、今日の沖縄問題を解く鍵も、これら局面の打開にあるといえる。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205691721728
  • NII論文ID
    130007013851
  • DOI
    10.14866/ajg.2007f.0.68.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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