子どもへの犯罪発生地点の空間的分布特性

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  • A Spatial Analysis of Crimes against Children

抄録

<BR>【はじめに】 近年,子どもへの犯罪に関して,学校や地域単位で学校安全地図を作ることが急速に全国にひろまっている。ひったくりなど一般的な犯罪に対しては,発生地点の空間的分布を周辺の環境や社会的因子で分析した研究が見られるものの,子どもへの犯罪については,この種の研究がほとんど見られない。そこで本研究では,大阪北部の郊外地域を事例にして,発生地点分布の最近隣分析,町丁単位や学校区単位での発生頻度と社会的諸指標との単相関分析,ラスター地図を用いた発生地点と土地利用との重ね合わせ,距離分析を行った。 <BR>【調査地域および資料】 調査対象は大阪市都心域北部の大阪府と兵庫県にわたる20km四方とした。北端に山林や農地,南端に商工業地を含むが,他の多くは住宅地が分布している。犯罪資料は,両府県警察のホームページにある2006年の子ども犯罪地図から得た。ここには子どもへの犯罪被害のうち,声かけ,公然猥褻,粗暴犯,つきまといなどの犯罪種が番地精度の発生地点でWebGIS上に示される。社会的背景資料は平成12年国勢調査,13年事業所統計,国土地理院数値地図5000(土地利用)(2001),背景地図は国土地理院数値地図2500(空間データ基盤)から得た。 <BR>【分析結果】 山林河川海面を除く実面積300km2の中で,犯罪発生768地点の最近隣平均距離は278mであった。一方地域内にランダムに犯罪が分布していると仮定した場合の平均は312mと計算され,最近隣指標は0.89となり,ランダムではなく,複数箇所に弱く集中する傾向が見られた(図1)。 地域内の町丁数は2950あり,各町丁内の犯罪発生数の最大で5件,平均は0.26件と少なく,大半の町が0~1件である。したがって,町丁目ごとの発生頻度を比較するためにはサンプル数が不足していると判断した。中学校区単位での発生数の平均は6.9件,最大は25件となる。校区間で有意な差異が見られた。総人口と0.52の相関係数が見られ,他15歳未満人口などいくつかの人口指標との相関が見られた。 犯罪発生地点と土地利用との関係を見るために,10m四方を単位とした2000×2000のラスター土地利用図と犯罪地点との重ね合わせ分析を行った。調査地域全域の中で,農地,空地,低層住宅,密集低層住宅,中高層住宅,商業地,工業地,道路,公共施設の土地利用区分が占める面積比と,犯罪地点から25m円内で,これらの土地利用区分が占める面積比を比較した。低層住宅と道路は,全域に占める面積比(25%と19%)と同様に犯罪発生地点でも同様の高い面積比を示した。高層住宅では,全域の7%よりも6ポイント犯罪地点が高い。密集低層住宅(2%)と商業地(9%)でも犯罪地点の2ポイントの増加が見られる。一方農地(6%),工業地(6%),公共施設(19%)では犯罪地点での面積割合が大きく減少する。 犯罪発生分布に空間的な影響の大きい因子と予想される,駅,主要道路,商業施設および小中学校の位置からの距離と犯罪発生地点頻度との間には,相関はほとんど見られなかった。 土地利用の中で大きな割合を占める住宅三種と商・工業地では,互いの隣接部や混在地に犯罪が多発する傾向が見られた。これを定量的に評価するために,ラスター土地利用図を用いて,各セルから300m四方内に含まれる住宅地域と商工業地域との面積比を計算し,住宅地専用地の0から商工業地の占める面積と共に1まで連続的に変化する「住宅地に対する商工業地の卓出度」を図化し,犯罪発生地点とを重ね合わせ,面積頻度分布を算出した(図2)。結果として,調査地域全域の頻度分布では,住宅に対する商工業地の卓出度0の住宅専用地が25%を占め,そこから連続的に減少し,0.8から1.0の商工業専用地の頻度は2%から4%となる。一方,犯罪発生地点の頻度分布では,住宅専用地域の頻度が16%に,商工業専用地がほぼ0%に減少する。替わって住宅地に対する商工業地卓出度0.1~0.4の領域の頻度が高まっている。この領域は住宅地と商工業地との隣接地または混在地に相当する。 <BR>【考察およびまとめ】 子どもへの犯罪研究の場合,犯罪定義の困難,高い暗数,犯罪不安の変動が資料上の問題点である。結果として,明瞭な犯罪集中地点の検出は難しかった。発生頻度の町丁単位での分析は困難であったが,中学校区は被害者の年齢層や行動範囲と対応し,合理的な分析単位となった。環境犯罪学では,目標物の存在,犯行地点への接近性,犯行地点での監視性と領域性とが犯罪発生に関るとされる。今回の結果,中学校校区単位での発生頻度の人口指標との相関や土地利用の住宅地での発生が多いことは,目標物の存在(子どもの数)の要因が大きいことを示している。さらに住宅専用地と商工業専用地との隣接あるいは混在地に犯罪が多いことは,このような場所が、住宅専用地や商工業専用地に比べて、より容易な接近性、弱い領域性、低い監視性をもつことと反映している。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205691751808
  • NII論文ID
    130007013911
  • DOI
    10.14866/ajg.2007s.0.152.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
    • KAKEN
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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