フィリピン・ルソン島中部タルラック(Tarlac)川における河畔林の砂防効果

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タイトル別名
  • Flood control effect of the riparian forest along the Tarlac River, central Luzon Island, the Philippines
  • controlling lahar sediment from Pinatubo volcano
  • ピナトゥボ火山からのラハールの制御

抄録

<BR>1.はじめに<BR>  ピナトゥボ火山は1991年6月15日に大規模火砕流の噴出を伴う大噴火を起こした.この火砕流堆積物は,その後の降雨に伴ってLahar(ラハール)となって移動し,下流域のPampanga州,Tarlac州などに大きな被害をもたらした.日本のODAなどによる巨大堤防の設置などにより,その被害は減少しつつあるが,現在でも雨期には洪水によって小規模なラハールが発生し,場合によってはラハールが河岸の農地などに溢流している状況が確認できる.経済的基盤が弱いフィリピンにおいて,これらの小規模な土砂移動に対しては,大規模な土木工事以外の対策を取ることも必要となろう.<BR>  著者等は,ピナトゥボ火山周辺においてラハール堆積物の堆積構造などの調査を行っているが,その調査過程において,河畔に成立しているタケを中心とする河畔林がラハール堆積物を捕捉(スクリーニング)することによって自然堤防を発達させ,背後の耕作地への土砂の侵入を阻止している状況を確認した.本発表では,この河畔林によるラハール堆積物の補足状況について報告し,フィリピンにおける今後の砂防対策立案の一助にしたい.<BR> <BR> 2.河畔林による土砂補足状況<BR>  今回,観察を行った河畔林は,タルラック(Tarlac)州パニキ(Panique)地区のタルラック川沿いに成立している,叢生するタケを中心に,一部にエンジュなどが混生しており,樹高はおよそ12~15mに達している.地元住民が周囲にいなかったため充分な聞き取り調査は行えなかったが,カウンターパートのフィリピン人研究者の弁では,自然に成立した森林であろうとのことであった.<BR>  この河畔林の横断方向に測線を設定し,ハンドレベルとレーザー測距儀を用いて地形断面図を作成した.河畔林の部分は後背地の農地に比べ,約1m程度高い.この高くなった部分でピット(写真)を掘削すると,層厚数mmに成層した砂層が確認され,層内には円磨されたパミス粒が見られる.このことから,高くなった部分は河畔林がラハール堆積物を捕捉しつつ上方に発達させた自然堤防であると判断される.一方,河畔林前面では,河道からの側方浸食が河畔林の直前面まで及んでいることも確認される.これは,河畔林の根茎が河川の側方浸食を防いでいることを予測させる.また,表土部分の粒度は,河畔林前面で粗砂が主体であるのに対し,自然堤防上では中~細砂画分が多くなり,河畔林背面ではシルト画分が多くなる.これは,粗度が高い河畔林を洪水流が通過することによって流速が低下し,後背地には粗い土砂が運搬されないことを示す.このように,河畔林は洪水流とそれに含まれる土砂を制御していると判断される.<BR> <BR> 3.まとめ<BR>  河畔林が洪水流や浸食を制御し,土砂を捕捉して自然堤防の発達を促す効果を,日本では伝統的に「水害防備林」として利用してきた.今回調査した河畔林は自然林とのことであるが,同様の河畔林は数カ所で観察できた.こうした森林の効果を積極的に治水に活用することが,フィリピンのような土木工事予算が限られた国では効果的であるし,日本の知識や経験が有効に利用できるであろう.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205691803904
  • NII論文ID
    130007014015
  • DOI
    10.14866/ajg.2007f.0.86.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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