近年の韓国における地域産業政策の展開

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タイトル別名
  • Recent Development of Regional Industrial Policies in Korea
  • Focusing on Daegu Milano Project
  • 大邱ミラノプロジェクトを中心に

抄録

今まで韓国の地域産業政策の大部分は,中央政府の主導で行われ,その政策手段も中央政府から選定された各地域に等しく適用される方式で推進されてきた.しかし,最近韓国では,地方自治制度の復活と発展とともに,既存の産業政策の立案と推進過程に変化が現れ,地方自治体が,地域経済を活性化させるため,政策の決定や執行に主導的な役割を演じ始めた.本発表では,このような地域産業政策のパラダイムの変化に対応した韓国の地域産業政策の展開について大邱ミラノプロジェクトを中心に跡付けていく.<BR>  大邱広域市では,地域の繊維産業を対象とした‘繊維産業育成方案(通称:ミラノプロジェクト)’を1999年からスタートさせ,現在は第3段階(2009~2012年)の事業を推進している.政策の目標は,大邱地域の繊維産業を先端高付加価値型の繊維産業に構造を改編し,最終的に世界的な繊維・ファッション産業のメッカとして育成・発展させることであり,イタリアのミラノ市を発展モデルとしている.大邱地域のミラノプロジェクトは,特定地域の特定産業を選定して集中的な支援を行う地域産業政策の最初の事例であり,その後全国的に推進された‘地域産業振興事業’の先駆けとなった.<BR>  ミラノプロジェクトは,金大中政府の新産業政策として出発した.事業推進の権限は,大邱広域市ではなく,中央政府の産業資源部が持っていた.また,ミラノプロジェクトは,大邱の繊維産業の育成のための独自事業として始めたが,以後,中央政府の決定によって4ヵ地域産業振興事業の一つという位置づけに変更された.第1段階のミラノプロジェクト(1999~2003年)は,17ヵ事業,事業費6,800億ウォンで,基盤造成のためのハード面の整備が事業の中心であった.基盤施設における集中的な投資を通じ,地域繊維産業の構造改善及び高度化のためのインフラが構築された.しかし,政策の企画・設立から多くの問題点を露出した.第1段階のミラノプロジェクトは,事業企画のための基礎調査と分析が不十分であり,全般的にずさんであった.そのため,事業企画に関する協議が不足し,企業間の有機的な協力がなく,また産業界以外の地域内外の主体の参加も不足していた.<BR>  2003年に発足した盧武鉉政府は,韓国の地域政策において画期的な変化をもたらした.盧武鉉政府は,国家均衡発展政策というフレームの下で積極的な地域政策を推進し,国家均衡発展特別法,特別会計,国家均衡発展委員会,国家均衡発展5ヶ年計画などを通じ、地域政策の制度的基盤を整備した.2004年から推進された第2段階の事業では,各地方自治体の企画案を土台とし,中央と地方自治体間の協議調整を経て,事業が設計された.また,第1段階とは,地域の特性を反映した戦略産業の追加,産業別・地域別に特性化されたプログラムに対する投資の強化,部門別事業間・地域間ネットワークと協力の強化,総合的な評価管理システムの構築などの違いがある. 第2段階のミラノプロジェクト(2004~2008年)は,16ヵ事業,事業費1,978億ウォンで,企業の研究開発のためのソフト面の整備に重点を置いた.企業側面から高感度・高機能性の繊維製品を開発する174の事業課題を支援し,人材養成,インフラの補強,融資事業を重点的に推進した.しかし,まだ産学研ネットワーク構造の脆弱,技術開発の活用と事業推進成果に対する評価システムの不備,事業費の有用と公金横領などの予算執行統制システムの不十分などが批判されている.<BR>  長い間,中央集権体制を維持して来た韓国で,地域自らが発展戦略を樹立するということは大きな制度的転換であるが,事業の成否の鍵を握っているのは地方自治体の政策企画能力と事業の運営能力である.いまだに中央政府と地方政府との分野別・政策間の役目分担は不明瞭であり,相互連携も不充分である.また地域産業政策がその地方自治体から立案されているにも関わらず,政策決定は中央政府の権限であるため,強い統制を受けている.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680670636288
  • NII論文ID
    130007016898
  • DOI
    10.14866/ajg.2010s.0.217.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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