地理教科書を通してみた近代中学校地理教育における石橋五郎の役割

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • the role of ishibashi goro in geography education modern times through geography textbooks

抄録

【石橋の経歴】石橋五郎(1876‐1946)は千葉県出身で、東京帝国大学文科大学史学科を1901年7月に卒業後、1904年神戸高等商業学校に赴任し、商業地理等を教えた。1907年京都帝国大学文科大学に史学科が創設されるに際し,史学地理学第二講座(後の地理学講座)が開設され、小川琢治(1870_-_1941)のもとで、人文地理学を講じた。1921年に小川が他学部へ転出した後は,石橋が講座を担当し、時代変遷史的に地理を見る立場を鮮明にし,当初はラッツエル、後には「地人相関論」の立場にたって講義を行った。1927年からは多くの著作に携わり、『日本地理風俗大系』、中学校教科書を著し、地理学の成果普及に努めた。<br>【地理学の方法論の導入】石橋が活躍し始めた1910_から_20年代の中学校地理教育の現状は、啓蒙的に知識(地名物産地理)を下達するものが多かった。例えば石橋よりも先に活躍した山崎直方の教科書では、地人相関的な記述はなかなかみられず、地名が羅列的に並べられたものが多かった。そうした教科書ではなく、石橋は地理学の方法論をとりいれた教科書を執筆した。(石橋は教科書を1924_から_1943年にかけて約20冊著している。)<br>石橋の地理学方法論とは法則定立と地人相関論にあった。しかし石橋はこの両者を全て地理教育に取り入れずに、教育に役立つと思われる地人相関論のみを教育へとりいれた。それは、石橋が地理学と地理教育を別のものとして捉えていたからである。<br>【地人相関論導入過渡期としての位置付け】しかし、石橋が著した教科書の初期のものは、地名羅列的な記述のものだった。地人相関的記述をともなった教科書を書き始めたのは1931年以後であった。そうした記述がなされるようになった背景に、1931年の「中学校令施行規則改正」がある。このときに教育制度上ではじめて地人相関論を教えることの法的裏づけがなされたのであるが、石橋は地名の羅列的記述から、地人相関的記述へとうつりかわる動きを積極的に当局に働きかけた節があり、過渡期にあった人物といえる。<br>【教育全般(教育課程)における地理教育のいちづけ】一方で、石橋は教育全般(教育課程)における地理教育のいちづけを明確にしようとした。教育の目的を、「個人が一般的幸福のために自然的社会的環境にいかい適応すべきかを学ぶこと」と考えていたので、地理科は人間が環境にいかに適応すべきかを学ぶものだから、教育全般のなかで役立つものとした。<br>【地理教育の目的】教育全般の中での地理教育の役割を、石橋は著書『地理教育論』の中で体系的に論じた。生活に即した知識(職業に役立つ知識)、教養としての地理知識、祖国意識の強化、人類愛観念養成、国土美鑑賞のための情操の陶冶などを挙げている。要約すれば「情緒的な側面の陶冶」と「実用と教養の知識獲得」が地理教育の目的といえよう。実際に教科書をみても、二つの見解が生かされた記述となっている。<br> 同時代に地理教育を論じたものとして、田中啓爾の『地理教育に関する論文集』、佐藤保太郎(1933)の「小学校及び中等学校の地理教育」(『岩波講座教育科学16』)等があるが、いずれも教育大系全体を踏まえた地理教育を論ずることが少なく、局所的な論述で、体系的に論じるには至っていない。<br>【地理教育史における石橋の重要性】これまでのことから、地理教育史上、2つの点で、石橋は重要な存在と考えられる。第1は、地理の知識を上から下へと教授していた時代で、羅列的記述を避け、地理学の手法をとりいれた。そうしながらも、地理学と地理教育を混同しなかった点である。第2に、教育全般(教育課程)における地理教育の位置付けを論じ、目的を明確に論じたことである。すなわち、地理学と地理教育を分離した上で、次に教育全体の中で地理教育が果たしうることを目的論として体系的に打ち出したのである。石橋は「教育全般?地理教育?地理学」の構造を浮き彫りにした事実から、今後地理教育史においてさらに検討を加えられるべき人物であると考えられる。<br>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680670927872
  • NII論文ID
    130007017289
  • DOI
    10.14866/ajg.2004s.0.111.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ