2014年長野県神城断層地震に伴って白馬村蕨平に出現した地表地震断層の変動地形学的調査

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  • Tectonic geomorphological study of the surface rupture associated with the 2014 Kamishiro fault earthquake at Warabidaira, Hakuba Village, central Japan

抄録

2014年11月22日長野県北部の深さ5kmを震源とするM6.7の地震が発生し,糸静線活断層系の北部を構成する神城断層に沿い最大上下変位約90cmの地表地震断層が約9kmにわたり出現した.この地震の発震機構は西北西-東南東方向に圧力軸を持ち,これと余震分布から東傾斜の逆断層であるとされた.また余震分布と合成開口レーダーの解析から地震断層の長さは約20kmとされた.この地震で犠牲者は出なかったものの,神城堀之内地区を中心に建物に大きな被害がでた. この地震は過去のトレンチ調査などから神城断層で発生すると推定されていた地震よりは一回り小さい地震であった.地震断層は既知の活断層とよく一致したものの,活動的と思われる活断層トレースには今回変位が認められないものがあることなどから今回のような地震とは別のより大きな地震が存在する可能性がある一方で,今回大きな被害が出た堀之内地区が1714年信濃小谷地震でも同様な被害が出ていることから,比較的小さな地震が短い活動間隔で発生する可能性もあるなど多くの課題が突きつけられており,白馬・神城地域で発生した古地震と今回の地震の関係を明らかにすることは重要である.鈴木ほか(2015)は地震前後の高密度LiDAR計測のデータを比較することで,地震断層を発見できることを指摘し,大出地区南の姫川右岸(蕨平地区)で新たに地震断層を見出し,段丘が累積変位していることを指摘した.本発表はこの地区で2015年10~11月に実施した現地調査の速報である. 調査地点付近は米軍写真で確認すると水田または河床であり,調査時には管理があまりされていない下草が生い茂る杉林となっていた.米軍写真では完新世に形成されたと考えられる多段化した地形を確認することが出来るが,これらの段丘は面積が小さく,付近において姫川が屈曲しているため,それぞれの平坦地を区切る崖が侵食崖か変動崖かの判断を慎重に行った.その結果我々は,これらを大きく5段に分類し,上位から順にLa面・Lb1面・Lb2面・Lc1面・Lc2面と命名した.Lc2面は米軍写真撮影時には河床であった場所であり,他は水田として利用されていた場所である. 今回,下草および低木をすべて刈り取り伐採し,鈴木ほか(2015)で地震断層の可能性を指摘された北北東―南南西走向の低崖の確認を行った.その結果,Lc2面に東側隆起で比高0.3-0.4mの低崖を見出したほか,この低崖の延長部でLc1面・Lb2面・Lb1面・La面上にそれぞれ比高約0.5m,1.1m,1.6m,1.5mの低崖を確認した.これらの低崖直上の杉の木は軒並み西側に傾いており,2014年の活動による低断層崖の成長によって倒れたものと推察できる.変位の累積性も確認され,地下の断層が繰り返し活動してきたことを示唆している.加えて,それぞれの段丘面を区切る段丘崖は左横ずれ変位を受けていると考えられ,Lc1面/Lc2面段丘崖やLb2面/Lc1面段丘崖などで約1.0m,Lb1面/Lb2面段丘崖で約5.0m,La面/Lb1面段丘崖で約7.5mの左横ずれの変位が認められ,この地域では左横ずれ成分が卓越することがわかった. Lc1面でトレンチ調査を行った.この目的は①断層の有無を確認すること,②最新イベントが2014年であること,③離水時期がひとつ前の地震より古ければ段丘礫層に2回分の変位が期待されることからひとつ前の活動時期を明らかにすることであった.トレンチ掘削の結果,東傾斜を有する明瞭な断層と関連する変形構造が確認され,最上部の水田土壌とその下位の砂層,および段丘構成礫層にほぼ同じ量の変位が認められた.この砂層には炭化物が少なからず含まれており,そのうちの1試料のC14年代はAD1660年以降-現世と測定されたため,2014年に先立つ地震はこのC14年代以前であることがわかった. 段丘の形成年代からイベントを推定するためにLa面で2カ所(隆起側および低下側),Lb1面で1カ所(隆起側),Lb2面で2カ所(隆起側および低下側)のピットを掘削し,これらの段丘の離水年代を明らかにするためのC14試料を採取した.その結果,La面の年代は2055―1900Cal.BP以前,Lb1面の年代は1695―1535Cal.BP,Lb2面の年代は1530―1355Cal.BPであった.その結果,この断層は,AD420年以降少なくとも2回以上の活動があり,AD255年以降AD595 年以前までにも少なくとも1回の活動があることが認められる.この平均活動間隔は586-880年であり,比較的短い間隔で地表地震断層が出現する地震があることが明らかになった.また,この間の平均変位速度を求めると,上下成分が0.8m/千年,左横ずれ成分が3.5m/千年程度と見積もられた.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205695795456
  • NII論文ID
    130007018031
  • DOI
    10.14866/ajg.2016s.0_100244
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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