東北タイにおける畠地植林で経験したいくつかの問題点

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  • Some factors bothering plantation operation at farm yard in northeast Thailand

抄録

東北タイ、コンケン県の実験農場において、畠地に木本数樹種を植栽し生存と成長を観察した。コンケンでは通常5_から_11月が雨期、11月から翌4月が厳しい乾期であり、特にうち3,4月は乾燥しかつきわめて気温の高い「夏」である。植栽場所は約20年以上以前から耕作が続けられてきた畠であり、土壌は細かい砂質である。本農場内では塩性土壌の害はみられていない。1.畠地造林での除草に関する問題 1998年雨期の初めに畠跡地(40m×30m)に2m間隔で植栽を行った。植栽樹種は、Pterocarpus macrocarpus (Pm: マメ科)、Azadirachta indica (Ai: センダン科)ならびにフタバガキ科のDipterocarpus alatus (Da)であり、それぞれ種毎に植栽した。最初の雨期の間、これらの半面では植栽木周囲の除草を行い、残り半面は無除草の対照区とした。畠地における雑草との競争緩和による成長促進効果の定量評価を行う予定であった。植栽1年経過後以降は両区とも無除草である。しかし続く乾期後半における植栽木サイズは、予想と逆に対照区で大きく除草区では極端に小さかった。この傾向はAiで特に著しく、初期1年目での差(除草区:平均樹高42cm、対照区:108cm)は年々増大していった。原因は乾期に入っての雑草との競争にある。雨期除草区では乾期に、草丈の高いシソ科草本のHyptis suaveolens(ニオイニガクサ)が優占する群落が旺盛に繁茂し植栽木を被圧していたが、対照区では草丈の低いアカネ科Richardia scabraが優占しており、植栽木は雑草群落よりも高く成長していた。雨期の除草の有無がその後の雑草群落の遷移に差を生じさせた結果、除草区ではニオイニガクサによる被圧で植栽木の成長が抑えられた。2.畠地に植えたマメ科2樹種の生存 マメ科の早生樹種として知られるLeucaena leucocephalla(Ll: ギンネム)とGliricidia sepium(Gs)について家畜用飼料及び畠地被覆用材に用いる枝葉の生産能力把握のため、1996年雨期5_から_6月にかけて畠地の畝上にポット苗木を植栽した。植栽後雨期の間は両樹種とも全個体植栽時の2倍以上のサイズに成長したが、続く乾期の間に生存状況に大きな種間差が生じた。Llは乾期経過後でも全個体生存していたのに対し、Gsは約35%の個体が枯死した。両樹種の違いとして著しいものに根系の形状があげられる。Llは直根を深く伸ばして地下の湿潤な土壌層から吸水できるのに対し、Gsは浅い表層土に根を大きく広げる性質を持つ。 3.フタバガキ科Dipterocarpus alatusの生存 1998年に植栽区(20m×30m)を設け、1.と同様に前年まで耕作を行っていた畠へDaを植栽した。植栽初年の活着はきわめて不良で、翌年の乾期後半4月末での生存数は植栽169個体中でわずかに22個体(生存率:13%)のみであった。このため1999年6月に生存個体を残して改植を実施した。改植木の生存は初回植栽木と比較して著しく良好であり、2003年10月時点で76%の生存率であった。枯死木も旺盛な成長がまねいた競争により生じたものであり、林冠未成立時点での初回植栽木と死亡原因は明らかに異なる。耕起を繰り返してきた畠地では、踝まで沈み込むほど土は柔らかかったが、改植を行った翌年の雨期にはすでに固く締まっていた。初回植栽木の死亡率の高さはこの柔らか過ぎる土に主原因が求められよう。耕起による毛管切断が、Daへの水分供給に影響を及ぼし、特に乾期に顕著な乾燥をもたらしたのであろう。耕起からの経過時間の長さは土の緊密化により苗木によい水分環境をも与えたと推理した。2.における場合もこのDaの例と同様に、耕起がもたらす水分環境が、長寿命植物である木本の生存・成長に悪影響を及ぼしたものと理解できる。同様の原因がGsの枯死においても考えられる。植栽後最初の厳しい乾期に、耕作で毛管による水分上昇が断たれがちな畠地土壌表層に生じる乾燥によりGsは水分欠乏にたのだろう。その際、地表近くにしか根系を得ないGsはLlと比べてより乾燥害を受け易かったものと考えられる。畠地への造林では、その立地の特殊性をふまえた管理手法の検討が必要である。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205703154688
  • NII論文ID
    130007019739
  • DOI
    10.11519/jfs.115.0.p5016.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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