朝永・ラッティンジャー液体における電荷・スピン密度波束の観測実験

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タイトル別名
  • Time-Domain Observation of Charge- and Spin-Density Wavepackets in Quantum Hall Tomonaga-Luttinger Liquids
  • チョウエイ ・ ラッティンジャー エキタイ ニ オケル デンカ ・ スピン ミツドハ ソク ノ カンソク ジッケン

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抄録

<p>物性物理において,多体効果は数々の興味深い物理現象の源である.1次元電子系は,多体効果による顕著な物性が現れる典型例である.1次元電子系ではフェルミ液体論の準粒子描像が破綻し,励起は電荷またはスピンの集団運動(密度波)として記述される.この1次元電子系の興味深い性質は,朝永・ラッティンジャー(TL)液体と呼ばれる標準モデルによって説明される.このモデルは1950年に朝永振一郎博士によって最初に提案され,1963年にホアキン・マズダク・ラッティンジャー博士によって再構築された.当初は1次元電子系が実際に存在するとは想定されておらず,理論的なモデルとして提案されたようである.しかし現在では,半導体メゾスコピック系における量子細線,カーボンナノチューブ,量子ホール系試料端のカイラルエッジチャネルなど,実験技術の進歩によって実際に1次元電子系とみなすことができる物質・材料の作製が可能になっている.</p><p>現実の1次元電子系のTL液体的性質を確かめるスタンダードな実験手法は,冪乗則を観測することである.例えば1次元電子系へのトンネル電流の温度やバイアス電圧に対する冪的な依存性( IT αIV α′)から,素励起が準粒子ではなく電荷やスピン密度波であることを確認できる.このような実験から,多くの1次元電子系について,TL液体的性質がすでに良く確かめられている.では1次元電子系上の電荷,およびスピン密度波のダイナミクスを選択的に観測し,それぞれの伝搬特性を詳細に評価するような実験は可能だろうか.</p><p>我々は,1次元電子系に電子波束を注入しその時間発展を検出するポンプ・プローブ法によって,TL液体における素励起の観察に成功した.実験では,試料として整数量子ホールエッジチャネルを用いた.エッジチャネルはその1次元1方向性の伝搬特性ゆえに,カイラルTL液体として振る舞う.チャネルの本数や形状は電場や磁場によって制御可能であり,TL液体における素励起を観測するための最適な試料となる.我々は,エッジチャネルにおけるスピン電荷分離現象,および電荷波束の分断化現象を観測した.これらの現象はどちらもTL液体を象徴する重要な現象である.得られた時間波形データから,電荷およびスピン密度波の速度などの伝搬特性を読み取ることができ,エッジチャネルのTL液体としての性質を表す全パラメータを決定できる.</p><p>電荷,およびスピン密度波はTL液体の固有伝搬モードであるため,長距離を減衰することなく伝搬する.今回の実験では,これらの密度波束を励起し,伝送し,最終的に信号として独立に検出できることを示した.この結果は,代表的な量子多体系である1次元電子系において素励起のダイナミクスを直接観察したものであり,多体効果にもとづく物性の研究にとって大きな一歩だと考えている.</p>

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 72 (11), 805-809, 2017-11-05

    一般社団法人 日本物理学会

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