聴覚障害に対する次世代の薬物治療戦略

DOI
  • 任 書晃
    新潟大学大学院医歯学総合研究科分子生理学分野
  • 緒方 元気
    新潟大学大学院医歯学総合研究科分子生理学分野
  • 日比野 浩
    新潟大学大学院医歯学総合研究科分子生理学分野

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抄録

聴覚は,機械的刺激である音を集音する外耳に始まり,機械的増幅を行う中耳,音を神経系が認識可能な電気信号に変換する末梢器官「蝸牛」,聴神経における神経伝達を経て,最終的に脳の聴覚野に至る一連の感覚知覚システムの働きによって担われている.この系を構成する要素のどこが障害されても聴覚障害が惹起される.聴覚障害には,聴覚過敏や耳鳴り,難聴が含まれているが,本稿では難聴に主眼を置いた治療の変遷と将来の薬物治療戦略について紹介する.<br>難聴患者は我が国で1,000万人を超え,人口の10%に上る.0.1%の新生児は難聴を有し,これは最も頻度の高い先天性疾患の1つである.この難聴には大きく分けて2種類ある.中耳・外耳伝達系の障害を原因とする伝音難聴と,内耳蝸牛から脳側の障害に起因する感音難聴である.感音難聴は,より脳に近い場所での障害で起こるため,その治療は薬物的にも手術的にもアクセスすることが難しい.一方,伝音難聴は外界に近い場所の障害によって発生するため,歴史的に難聴の治療法は伝音難聴の治療を中心に発展してきた.<br>18世紀に耳科医が独立した診療科となるまで,長らく外科医がその役割を担っていた.これは,治療可能な疾患の中心が感染に起因する伝音難聴,すなわち外耳炎・中耳炎などであったことによる.これらの治療は,19世紀のペニシリンの発見により,飛躍的に改善する.しかし,感染の制御が可能となっても,感染を原因としない中耳炎や,慢性炎症の後遺症などによっても中耳骨の変形や鼓膜の損傷が起こることから,失われた外耳・中耳の機能を再建するために,顕微鏡による手術がこの半世紀で劇的な進化を遂げた.21世紀に入り,先天性疾患を含めた外耳・中耳疾患の薬物および手術的治療法は,ほぼ確立されたといっても過言ではない.

収録刊行物

  • ファルマシア

    ファルマシア 51 (12), 1143-1147, 2015

    公益社団法人 日本薬学会

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