わが国で初めての本格的な出生コーホート研究から見た環境化学物質の濃度レベルと次世代影響

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  • 岸 玲子
    北海道大学環境健康科学研究教育センター
  • 荒木 敦子
    環境化学物質による健康障害の予防に関するWHO研究協力センター

書誌事項

タイトル別名
  • Environmental chemicals and their effects on children based on the first birth cohort studies in Japan
  • ワガクニ デ ハジメテ ノ ホンカクテキ ナ シュッショウ コーホート ケンキュウ カラ ミタ カンキョウ カガク ブッシツ ノ ノウド レベル ト ジセダイ エイキョウ

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抄録

<p>シーア・コルボーンらにより「Our stolen future(邦訳「奪われし未来」)」が出版された1996年頃から,各国で環境化学物質の内分泌かく乱作用など次世代影響に関心が高まった.日本でも我々は2001年から厚生労働科学研究により「環境と子どもの健康に関する北海道スタディ:先天異常・発達・アレルギー」として 2 つのコーホートを立ち上げた.コーホートの 1 つは北海道全域の産科の協力により器官形成期に同意を得て,母20,926人のベースライン採血を行い,出生アウトカムを観察し,その児を学童期,思春期と追跡している.他の一つは妊娠中後期に母514人の同意を得て児の詳細な精神神経発達を観察している.この研究は我が国で初めての本格的な出生コーホートで,16年に渡って追跡し,現在までに100編を超える原著論文が出ている.コーホート研究の最近の成果を見るとPCB・ダイオキシン類,有機フッ素化合物,有機塩素系農薬など半減期の長いPOPsでは母の曝露濃度が体格,甲状腺機能,性ホルモンに影響を与え,生後の神経発達,感染症アレルギー等にも影響を与えた.近年,使用量が増加しているプラスチック可塑剤やBPAなど短半減期物質と肥満や発達障害等の関係についても検討を開始している.日本では過去に高濃度の水銀曝露で水俣病が,またダイオキシン類曝露でカネミライスオイル事故が引きおこされた.一方,本研究における比較的低濃度レベルの曝露でも,比較的高い人と低い人では影響の差が検出された.北海道スタディは当初から環境遺伝交互作用に着目し,SNPs解析によって喫煙やカフェインなど環境要因に感受性が高いハイリスク群を発見してきた.またエピゲノム解析では,環境化学物質の濃度と関連したメチル化への影響や,出生体重など発育に影響するCpGサイトを介在分析で明らかにできた.近年は世界的にDOHaD仮説(Developmental origin of health and Diseases, 疾病の胎児期・幼少時期起源説)が重要になっているので,今後は広く小児疾患への環境要因として捉えることが必要になる.環境疫学では正確な曝露測定に基づくリスク評価を行い,科学的な成果を環境政策に活かすことが重要である.実際に,北海道スタディは環境省エコチル研究のモデルにもなり,計画設計時から協力している.また日本,韓国,台湾の 3 つのコーホートの主任研究者が協力してBiCCA(Birth Cohort Consortium of Asia)を設立し,現在15か国で29の出生コーホートが参加して活動をしている.今後のリスク評価でも国際共同研究が数多く進展するであろう.</p>

収録刊行物

  • 保健医療科学

    保健医療科学 67 (3), 292-305, 2018-08-31

    国立保健医療科学院

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