天候デリバティブの種苗ビジネスへの展開

書誌事項

タイトル別名
  • Weather Derivative to Incorporate Multiple Weather Factors and Agricultural Insights into Option Pricing Model:
  • 天候デリバティブの種苗ビジネスへの展開 : 農学的知見による多変量線形回帰モデルの最適化とオプション・プライシング
  • テンコウ デリバティブ ノ シュビョウ ビジネス エ ノ テンカイ : ノウガクテキ チケン ニ ヨル タヘンリョウ センケイ カイキ モデル ノ サイテキカ ト オプション ・ プライシング
  • 農学的知見による多変量線形回帰モデルの最適化とオプション・プライシング
  • A Case Study for the U.S. Seed Production Business

この論文をさがす

抄録

農業は、その収益(収穫量)が天候リスクに悩まされている事業のひとつである。これまで各国政府は自国の食料安全保障政策の観点から、また、農民の経営安定への支援を目的として、各国独自の農業保険を整備してきている。ところが、いずれの国においてもこうした従来型の農業保険が効率的に運営されていないのではないかとの批判にさらされている。例えば、米国のように手厚い農業補助金(税金)の使い方が政争の具にされている国もある1。こうした従来型の農業保険に置き替わる、もしくは補完する新たなリスク緩和手段として、天候デリバティブを利用したリスクヘッジ手法の創設への期待が大きい。 気温、降雨量、日照量、風量など多かれ少なかれ作物の生育に影響を与える気象要素はいくつか数えられるが、これまで農業部門で導入されてきた天候デリバティブは降雨量型が主流となっている。かたや、エネルギー部門を中心に市場取引されているのは気温型である(Cao et al. (2004))。降雨量型の天候デリバティブの基本モデルは、干ばつなどで雨が不足すると収穫量が落ちて損失する場合、あるいは雨が降りすぎて洪水などにより損失する場合に、気象量をインデックスとした金銭の授受で補償するかたちをとる。したがって、栽培期間中の累積降雨量で収穫量ないし収益との関係性を明らかにできることが鍵となるが、単一の気象要素に頼ったモデルではその説明力に限界があることも指摘されている。そうした中で、いくつかの先行研究では、作物の特性、農学的な知見をモデル構築のプロセスに組み込んでインデックスを作成する有効性が指摘されてきている。しかし、それらをどのようにモデルの構築に役立てていくかという具体的な手法を示した先行研究はまだ少ない。 本研究では、米国ワシントン州の西海岸に位置する野菜種子の生産地を題材にして、複数の気象要素を組み入れて種子の収穫量を推定するモデルを構築し、天候デリバティブ取引のフレームワークを策定している。特に、地元農業技術者の知見、現場の経験則を収穫量推定モデルに組み入れていくプロセスに重点を置いて考察したものである。また、栽培期間中の作物の生育ステージをたどりながら、植物の生理、その時々で計画される農作業も勘案しながら、地元農業技術者全てに関心の高い気象要素をもれなく取り上げることに専念した。最終的には複数の気象要素を調合してモデルを作成したが、当該取引の普及も考慮して、需要側に対するわかりやすさにも心掛けた。作物生産のストーリー性をモデルに付与したことが本研究の貢献であると考えている。そのストーリー性が織り込まれたモデルを統計的手法により最適化し、作成したインデックスを原資産とするプットオプションのプレミアムを算定する手順を明確に示すと同時に、あわせて支払い上限付き条件でのプレミアムの算出も行って、実務家にとって実用化しやすいモデルを提案した。

収録刊行物

被引用文献 (1)*注記

もっと見る

参考文献 (3)*注記

もっと見る

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ