自然地理的基礎をどう教えるか

書誌事項

タイトル別名
  • How to teach basics of physical geography
  • - challenges and prospect -
  • -課題と展望-

抄録

1. はじめにー地理総合における自然地理的基礎の役割<br><br>地理総合で学ぶ自然地理的基礎は、1)アジアと日本の自然環境の特質を知り、2)人間環境システムの仕組み・地域性・変容過程を理解し、3)防災や環境問題に関わる自然的、基層的な課題を認識するためのミニマムエッセンスである、と考えたい。地球システム論や環境史を取り入れ、地学や歴史総合と連携しつつ、「地理総合」の防災教育と環境教育に関わる部分の体系化を推し進める必要がある。<br><br><br><br>2.地理を学ぶ動機<br><br>地理では、地形、気候、生態系、土地利用、産業、生活文化などが、元来地域的に多様であることを学ぶ。地理的多様性が、自然災害、乱開発、環境破壊、紛争などによって失われつつある危機を、現場の状況から学び取りたい。多様性が失われていく背景には、様々な利害対立や矛盾、異なる価値観の衝突がある。危機は、社会的弱者を直撃する。だれもが安心して暮らせる社会を実現するための出発点は、多様な価値に支えられて、地理的な多様性がそこに根付いてきたことの再発見であろう。このことを認識し、地理を学ぶ動機を高めたい。<br><br><br><br>3.モンスーンアジアの島弧としての国土の理解<br><br>中学校で学ぶ世界地誌に、後述する人間環境システムの視点を加え、世界・モンスーンアジア・日本列島という空間階層のなかに国土を位置づけたい。地域の環境要素を機能的なまとまり(系)として捉える視点を大切にしたい。世界の半数の人々が暮らすモンスーンアジアは、生物多様性に富み、地形変化が激しく、山が崩れ、河川は洪水のたびに多量の土砂を運ぶ。河川の下流には、堆積平野が発達し、稲作が営まれてきた。このような自然の恵みと猛威が地理的に重なり合う土地での暮らしは、冷温帯の安定陸域とは全く異なる文化や自然観を育んできた。日本列島はその最たる場所ということもでき、島弧ゆえに地震・火山活動がとりわけ活発である。アジアで最初に西洋文明を本格的に輸入し、経済成長を遂げ、都市人口率が急増した国土を、その基層をなす自然環境まで掘り下げてみることで、日本やモンスーンアジア地域の災害軽減や環境問題の解決に貢献する手がかりを見つけたい。<br><br><br><br>4.人間環境システム論の導入ー地球的課題への視座<br><br>地理総合では、人と自然(地球)の関係を具体的に学びたい。地球システムにおける地圏・気圏・水圏・生物圏の相互作用や、第四紀における気候・海水準の周期様変動の概略を知るだけで、地球規模での環境理解は格段に深まり、地球環境問題が人類の生存と直結する課題であることを実感できる。例えば、産業革命以降の地下資源に依拠した生産活動が戦後急成長した結果、①地球システムにおける物質循環が変わり、大気中のCO2濃度が上がり、温暖化して気候が変わり、洪水リスクが高まっている可能性と、②都市への人口集中を招き、スプロール(とくに日本では1960-80年代の災害の静穏期と重なった)に災害対応が追い付かず、洪水リスクが高まっている可能性を学習できる。<br><br>人は自然の一部でありながら、自然を外に置くことで、自然から多くを得てきた。その結果、自然は改変され、人は存続の危機を迎えている。それを地球システムにおける人間圏の分化、あるいは、第四紀における人新世の誕生と呼ぶことがある。地球システムにおいて人間活動を相対化するには、物質・エネルギー・資本・人のグローバルな流れの定量化・可視化が必要である。統計資料やGISを駆使した人間活動の相対化学習を通じて、地球的課題に対する新たな視座を得たい。<br><br><br><br>5.地形分類図の活用―安心安全な社会づくりの基盤<br><br> ハザードマップと地形図の橋渡しとして、地形分類図を教材化したい。「地理院地図」を活用すると良い。IoTで水位や揺れ、崩れの監視や避難支援が実現しても、災害から助かる基本は、土地の素性を知り、用心することである。地形は、形・でき方・できた時期・構成物に基づき、類型的に階層分類される。その空間分布を示す主題図が地形分類図であり、近い将来変化する地形(氾濫原、活断層周辺、急斜面など)、安定的な地形(段丘面の中央など)、人工改変地形(切盛土地など)の分布を俯瞰できる。これに、地域の開発史や災害史を重ねることで、その土地の素性や、土地と人との関係を概観できる。特に、微地形と集落の分布関係が重要であるが、地形改変の著しい地域では、改変前の旧地形に遡ってみると良い。地形分類図を理解すると、ハザードマップの読図力は格段に高まる。地形分類図は、地盤・地下水・土壌などの土地資源の空間分布の把握にも役立ち、自然景観に空間構造の枠組みを与え、ジオパーク活動にも資する社会的共通インフラである。地形分類図を安心安全で活力のある地域社会づくりに活用したい。

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被引用文献 (1)*注記

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390845713072772480
  • NII論文ID
    130007628514
  • DOI
    10.14866/ajg.2019s.0_281
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
    • Crossref
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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