沿岸漁場のガバナンスと漁業協同組合

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タイトル別名
  • Coastal fishing grounds governance and fishery cooperative associations

抄録

1.はじめに<br><br> 日本の沿岸漁場秩序にかかわる制度の原型は,近世以来の慣習や集落構造を,漁業権制度をはじめとする漁業法体系に再編することで成立した.その中でも,漁業協同組合(以下,漁協)は,ローカルな集落を基盤とした漁業者の共同体組織として位置付けられる.漁協は各種経済事業や漁業権の管理を担うとともに,集落と対応するローカルな沿岸漁場の管理において中心的な役割を果たしてきた.<br><br>本報告では,従来の漁業制度や漁業研究において地域の漁業コミュニティとして措定されてきた漁協の変化を巨視的に示す.このことを通じて,漁協の基本的機能と見做されてきた沿岸漁場管理を,ガバナンスという視点から捉え直すことの意義について考察する.なお,本報告の分析対象は沿海出資漁協とする.<br><br><br><br>2.漁協の変化とガバナンスへの影響<br><br>戦後の漁業制度改革を通じて漁協に与えられた制度的理念は,地域の漁業者の民主的・等質的組織として,漁業者の経済状況の向上と,漁業者間の漁場利用調整や紛争の調停を担うというものであった.漁協の組合員資格は漁業法および漁協定款によって定義され,意思決定は組合員間での合意を原則とする.漁協による自治的・水平的ガバナンスが可能とされてきた背景の一つには,こうした制度的な根拠付けがある.<br><br> 他方で,戦後の社会経済の変動を通じて,漁協の機能・構造や地域社会との関係は変化してきた.高度成長期以降にはいわゆる伝統的漁村の解体が生じ,漁協の性格は従来の地縁的組織から職能的組織へと移行していったとされる.漁協内部では,集落別・漁業種別・階層別といった形で漁業コミュニティの個別分化が進み,漁協そのものは行政と漁業者の中間組織としての性格を強めてきた.また,近年では,沿岸域利用の多面化,関係主体の多様化,環境保全意識の高まりなどを受けて,漁業に限らない沿岸域利用の総合的ガバナンスが漁協の新たな機能に期待されている.<br><br> これらに加えて,1960年頃からは,小規模零細漁協の解消と経営の健全化を目的とした漁協合併が政策的に推進されてきた.その結果,全国の漁協数は1961年から2016年までの55年間で約7割減少している.合併は経営難にあえぐ漁協の存続に寄与してきたが,一方で,ミクロな漁業コミュニティと漁協の間には空間的な乖離を生じさせた.漁協の地理的変化は,ローカルスケールを単位とする沿岸漁場のガバナンスに大きく影響するとみられるが,そのマクロな動向については十分に検討されていない.<br><br><br><br>3.漁協の立地状況の変化<br><br>本報告では,1961年と2016年の2時点における漁協の立地状況の変化に着目する.2017年7・8月に,沿海漁協が立地する40都道府県から滋賀県を除いた39都道府県の水産部署に依頼し,2016年時点での漁協の立地と合併状況について31道府県からデータの提供を受けた.続いて,『漁業協同組合地域別統計』に記載されている1961年当時の漁協の所在地をデータベース化した.その他,『水産業協同組合年次報告』各年版や各自治体の公表資料を適宜参照した.これらのデータの概要は,地域漁業学会第59回大会(2017年10月)において発表済みである.本報告ではさらに分析を進め,漁協の立地状況と漁港背後集落数などを比較することで,統廃合による漁協の地理的変化とローカルな集落との関係を道府県スケールで検証する.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282763120976128
  • NII論文ID
    130007628622
  • DOI
    10.14866/ajg.2019s.0_291
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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