W. M. ヴォーリズの住宅設計にとり入れられたピアノの背景―生活文化としてのピアノ―

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  • 齊藤 紀子
    お茶の水女子大学グローバルリーダーシップ研究所

書誌事項

タイトル別名
  • The Living Spaces Furnished with Piano: W. M. Vories's View of Home
  • W. M. ヴォーリズ ノ ジュウタク セッケイ ニ トリ イレラレタ ピアノ ノ ハイケイ : セイカツ ブンカ ト シテ ノ ピアノ

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抄録

<p>本論文では、ヴォーリズが住宅を設計する際に居間に備える調度品の1つとして想定していたピアノについて、(音楽の演奏を主たる目的とした場ではなく)日常生活を営む場にもち込まれたものとして捉え、生活文化のなかに位置づけることを試みる。ヴォーリズは、1905年に英語科教員として来日し、その後、教え子と近江兄弟社を興して滋賀県近江八幡を拠点に、関西圏や軽井沢をはじめ、日本国内各地に教会や教育機関、住宅などを設計した。近江兄弟社では、米国製ピアノやオルガンの輸入・販売も行っている。ヴォーリズは日本の音楽文化と深い関わりがあるが、音楽学の研究対象となることはなかった。 本稿ではまず、ヴォーリズの住宅設計観が表された著作『吾家の設計』と『吾家の設備』をもとに、ヴォーリズにとってピアノが家庭に音楽を囲むひと時をもたらすために必要な楽器であったことを整理する。そして、建築(文化)史の先行研究でヴォーリズが参照したとされるアメリカのインテリア雑誌“Architectural Digest”においても、居間にピアノを備えた住宅が繰り返し紹介されているものの、室内装飾の呈を示すピアノが多く、ヴォーリズのピアノに対する理念とは相容れないことを指摘する。 そのうえで、ヴォーリズの生い立ちに着目し、居間にピアノを備えるヴォーリズの住宅設計観の背景を、熱心なクリスチャンの家庭で育ったこと、米国で幼い頃から学校や所属する教会のオルガンを弾いていたこと、来日後も近江兄弟社の行事や設計を手がけた教会の献堂式で奏楽していたことに探っていく。ピアノを切り口にみていくと、ヴォーリズの住宅は建築学よりもアメリカンホームの文化史の概念に近いものであることがわかる。そして、ヴォーリズの住宅設計観にとり込まれたピアノは、ヴォーリズ建築研究者山形氏が提唱する「生活学としての住宅設計」に通じる、生活文化を担う1つの道具として捉えられる。</p>

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