地域在住高齢者における嚥下機能低下と咳嗽機能、呼吸機能、運動機能の関連

DOI
  • 金子 秀雄
    国際医療福祉大学 福岡保健医療学部 理学療法学科
  • 鈴木 あかり
    国際医療福祉大学 福岡保健医療学部 理学療法学科

抄録

<p>【はじめに、目的】</p><p>肺炎による死因の多くは高齢者の誤嚥性肺炎といわれ、加齢に伴う嚥下機能低下は誤嚥性肺炎のリスクとなる。しかし、誤嚥性肺炎にはさまざまな要因が関連するため嚥下機能低下を認めても誤嚥性肺炎を発症するとは限らない。そこで本研究では、その背景を理解するため、歩行が自立した地域在住高齢者を対象とした調査結果をもとに、嚥下機能低下の有無による咳嗽機能、呼吸機能、運動機能の違いを検証した。</p><p>【方法】</p><p>地域在住で歩行が自立した65歳以上の高齢者を対象に研究参加の募集を行い、研究参加への同意が得られた228名の嚥下機能、咳嗽機能、呼吸機能、運動機能を測定した。神経疾患、気流制限、測定不可項目のあった人を除いた参加者の中から、反復唾液嚥下テストにより嚥下機能低下(3回の唾液嚥下時間>30秒)を認めた17名を抽出し、嚥下機能低下のない対象者(3回の唾液嚥下時間<15秒)とのマッチング(性、年齢、身長)を行った。最終的に、嚥下機能低下者12名(嚥下機能低下群)と非嚥下機能低下者12名(対照群)を分析対象とした。咳嗽機能は、ピークフローメータ(アセス)とフェイスマスクを使い咳嗽時最大呼気流量(CPF)を測定した。呼吸機能では努力性肺活量(FVC)、吸気筋力(MIP)、呼気筋力(MEP)、胸腹部可動性(呼吸運動評価スケール)を測定した。FVCと呼吸筋力は、それぞれスパイロメータと口腔内圧計を使いガイドラインに準じて測定した。呼吸運動評価スケールは、呼吸運動測定器を使い上部胸郭、下部胸郭、腹部における深呼吸時のスケール値(0~8)を測定し、その合計スケール値(0~24)を算出した。運動機能は、30秒椅子立ち上がりテストによる起立回数とTimed up and go testの所要時間(最大歩行速度)を先行研究に準じて測定した。すべての測定項目における嚥下機能低下群と対照群を比較するために、対応のないt検定を用いた。有意水準は5%とした。</p><p>【結果】</p><p>対象者に肺炎の既往はなかった。嚥下機能低下群(74~91歳)および対照群(73~91歳)のCPFは、それぞれ233 L/min、278 L/minであり、2群間に有意差が認められた。嚥下機能低下群と対照群の%FVC(それぞれの平均値:90%、90%)、MIP(35 cmH2O、49 cmH2O)、MEP(59 cmH2O、66 cmH2O)、合計スケール値(13、11)、起立回数(14回、15回)、所要時間(8.0秒、7.5秒)には有意差が認められなかった。</p><p>【結論】</p><p>嚥下機能低下のある地域在住高齢者のCPFは、嚥下機能のない高齢者より低値であった。このことは嚥下機能低下に伴い咳嗽機能も低下することを示唆する。しかし、その平均は自己排痰が可能な水準にあり、呼吸機能と運動機能は嚥下機能低下のない高齢者と明らかな違いがないことがわかった。今回の対象者は肺炎の既往もなかったことから、呼吸機能と運動機能が保たれることで嚥下機能が低下しても肺炎を生じることなく自立した在宅生活を継続できていると考えらえる。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究は倫理審査委員会の承認(15-Ifh-02)を得た後に実施し、対象者には書面にて説明と同意を得た。</p>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 46S1 (0), C-105_1-C-105_1, 2019

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390845713088638976
  • NII論文ID
    130007692607
  • DOI
    10.14900/cjpt.46s1.c-105_1
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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