北陸地方における集落営農の展開とその地域的特徴

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  • Development and Regional Characteristics of Community Based Farming in Hokuriku Region

抄録

<p>1.はじめに</p><p></p><p>2007年度から実施された品目横断的経営案的対策(08年度より水田・畑作経営所得安定対策に改称。以下,「経営所得安定対策」と略す)において,一定の面積要件(20ha以上)を満たした集落営農が政策支援の対象となった。これによって,都府県を中心に集落営農の設立が相次いだ。当初は,助成金を得ることを目的とした形式的な組織も多く設立されたが,近年では,地域農業(とりわけ水田農業)の担い手として無視できない存在となっている(鈴村,2018)。また,集落営農は,農業生産以外にも高齢化が進む地域の農地維持に重要な役割を果たしていることが指摘されている(清水,2013)。その一方で,組織の設立から時間が経過する中で,構成員の高齢化への対応や,後継世代の確保が課題となっている(高橋,2017)。</p><p></p><p>本報告では、水田農業が卓越し,全国の中でも集落営農の設立が進んでいる北陸地方(新潟県,富山県,石川県,福井県)を対象に集落営農の展開過程を整理する。合わせて,組織形態,経営規模,活動内容に注目し,当地域の集落営農の地域的な特徴を考察する。</p><p></p><p> </p><p></p><p>2.北陸地方における集落営農の展開</p><p></p><p>水田農業が農業の中心である北陸地方では,農業政策において集落営農が支援対象となる以前より集落営農がみられた。とりわけ富山県は,1980年代から集落営農を農業の担い手と位置づけて,様々な支援を行ってきた。そのため,経営所得安定対策が実施される前の2005年には,北陸地方の全集落営農(1,912)の43.8%(837)が富山県に集中していた。</p><p></p><p>その後,2007年度から実施された経営所得安定対策への対応として,北陸地方でも他の地域と同様に,集落営農が相次いで設立された。ただし,北陸地方では都府県と比べて集落営農の農業生産法人化が進んでいる。2010年の段階で都府県の集落営農に占める法人の割合は15%であったが,北陸地方はそれを大きく上回る28.7%であった。また,この時期には組織数の増加だけでなく,質的な変化もみられた。富山県では,経営所得安定対策の実施後に集落営農数が減少しているものの,経営耕地面積に大きな減少はみられない。それまでに存在していた集落営農が合併や統合を通した再編が進み,その結果,経営耕地面積の拡大がみられる。石川県では,それまでに多くみられた5ha未満の小規模な集落営農の割合が大きく減少し,経営所得安定対策の対象となる20ha以上の規模を組織へと再編されている。</p><p></p><p>2010年以降になると,都府県の集落営農と同様に,組織数の増加は鈍っているが,組織形態の面で法人化の流れが加速していく。なお,新潟県の下越地域をはじめ,従来から集落営農以外の経営体が地域農業を担ってきた地域では,集落営農の設立やその大規模化といった動きは低調であり,集落営農と従来からの担い手は地域的にみて相互補完の関係にあることが確認できる。</p><p></p><p> </p><p></p><p>3.各県の集落営農の現状と地域的特徴</p><p></p><p>2018年の段階で北陸地方には2,383の集落営農がある。このうち1,193(50.1%)が法人化されており,集落営農の法人化が全国でも最も進んでいる。いずれの県でも農事組合法人が多くみられるが,富山県では特にその傾向が強い。新潟県や石川県では,株式会社も一定数存在している。福井県はほかの3県に比べて,農事組合法人の割合が低いものの,株式会社以外の会社組織もみられる。</p><p></p><p>集落営農の経営規模をみると,石川県を除いた3県で100haを超える集落営農がみられる。新潟県と石川県は,従来の傾向から大きな変動はみられないが,富山県と福井県では,5ha未満の小規模層の割合が減少する一方で,30〜50haと50ha〜100haの規模を有する組織の割合が増加している。</p><p>集落営農の活動内容は,水田農業が中心である当該地域の特徴を反映して,水稲および転作作物の生産および農業機械の共同利用を中心としたものが多い。ただし,明確な地域差もみられる。新潟県と石川県は,集落内の営農を一括管理・運営している組織が少なく,農業機械の共同利用や,防除・収穫等の農作業受託などの作業を共同で行う組織が多い。さらに,集落営農を構成する農家の割合をみても50%未満のものが半数を占め,農地集積も限定的である。その一方で,富山県と福井県は,集落内の生産活動の一括化や,作付地の団地化による集落内の土地利用調整を行う組織が多く,地域農業の担い手として位置づけられる。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390845702282468352
  • NII論文ID
    130007710914
  • DOI
    10.14866/ajg.2019a.0_128
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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