光の連続性を活用した量子誤り耐性向上手法

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タイトル別名
  • High-Threshold Fault-Tolerant Quantum Computation with Analog Quantum Error Correction
  • ヒカリ ノ レンゾクセイ オ カツヨウ シタ リョウシ アヤマリ タイセイ コウジョウ シュホウ

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抄録

<p>1980年代に提唱された量子コンピュータは,量子力学の重ね合わせの原理を利用することで,素因数分解や化学反応のシミュレーションなどを現在のコンピュータより高速に処理できるとされる.量子計算では,量子情報が環境との相互作用により破壊されやすく,量子誤り訂正符号によって保護する必要がある.量子誤り訂正符号では多数の量子ビットを一つの論理ビットとして冗長化する.そして量子ビットに発生するエラーをしきい値と呼ばれる値まで抑えることで,エラーフリーな大規模量子計算が可能となる.しきい値は90年代では10-5~10-6とされ実験的な実現が非常に困難とされたが,21世紀に入り1%程度に改善されたこともあり,2014年には超伝導回路を用いた方式においてしきい値を達成する量子ビットが実装された.これを契機に世界的企業や各国の研究機関による量子コンピュータの研究開発が活発になり,現在では数十量子ビットの集積回路が作られている.</p><p>一方で実用的な問題サイズの量子計算の実行には,量子誤り訂正符号における量子ビットの冗長化のため最低でも1万~1億量子ビットの量子もつれ状態を必要とする.超伝導,原子や電子といった様々な物理系が量子ビットの候補とされる中で,光の連続性を利用した方式は,スクイーズされた真空場と呼ばれる光において100万モードのもつれ状態が生成されており,大規模な量子もつれ生成に有利とされる.これはビームスプリッターによる合波という比較的簡易な操作でもつれが生成できるためである.ところが,スクイーズされた真空場では計算中に発生するエラーを訂正できず大規模な量子計算は不可能である.そこで,2014年にGKP量子ビットと呼ばれる状態を用いる方法が提案され,光の連続性を利用した方式に対するしきい値が初めて示された.スクイーズされた真空場同様の大規模化に有利な性質を持つGKP量子ビットは,しきい値以下で制御することができれば,将来的に大規模な量子計算の実現のための有望な量子ビット候補の一つとなることが期待される.しかし,これまでに示されたしきい値は,370兆回の演算当り1回以下のエラーしか許されないという値であり,実装に向けて非常に大きな障壁だった.</p><p>今回我々は光波の連続的な性質を活用することで,しきい値を格段に改善することに成功した.光波の振幅を測定すると連続的なアナログ値が得られる.従来,アナログ値をデジタル化して0または1の値を決定していたが,アナログ値の情報を参照して量子ビットに誤りが発生した確率を推測する方法を開発した.これにより量子もつれ状態を大規模化する過程において,誤りが発生していそうな量子ビットを取り除くことができ,高純度の大規模量子もつれ状態を構築できる.さらにアナログ値の情報を参照し誤りパターンを推定して誤り耐性を向上させるアナログ量子誤り訂正法を考案し,構築した高純度のもつれ状態に発生するエラーをさらに抑え,しきい値を1万回の演算当り1回以下のエラーまで許容する値に改善した.しきい値に対する実験的要求を緩和させる本成果により光を用いた量子コンピュータの実現に大きく近づくことが期待できる.</p>

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 74 (10), 720-726, 2019-10-05

    一般社団法人 日本物理学会

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