堆積相分布の沖積平野間比較に基づいた三陸海岸における地殻変動様式の推定

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  • Estimation of crustal movement style along the Sanriku coast, northeast Japan, on the basis of interregional comparison of distribution of sedimentary facies of alluvial plains

抄録

<p>1.はじめに</p><p> 東北地方太平洋岸に位置する三陸海岸では,測地観測記録から,2011年に発生した東北地方太平洋沖地震時の沈降(Ozawa et al., 2011),および,2011年以前の数十〜百年間における沈降傾向(Kato, 1983)が認められる。一方,当該海岸では,海岸沿いの平坦面を更新世海成段丘と解釈することで,105年スケールの隆起傾向が示唆されていた(小池・町田,2001)が,海成段丘の編年データが得られているのは同海岸最北部のみであり(宮内,1988),南部では海成段丘と解釈されてきた平坦面の分布は断片的である(小池・町田,2001)。そのため,海成段丘分布に基づいた同海岸における地殻変動の空間分布の把握は現時点では難しい。</p><p> 発表者らは,三陸海岸に点在する沖積平野で,沖積層の解析と14C年代測定に基づいて完新世地殻変動の推定を行い,当該海岸中〜南部(宮古以南)の複数地点で沈降傾向が推定された(丹羽ほか,2014など)。一方,宮古以北での検討は小本平野の事例(Niwa et al., 2019)に限られる。本発表では,三陸海岸北部・久慈平野で得られた沖積層試料の解析結果を述べ,同平野と完新世の沈降傾向が報告される三陸海岸中部・津軽石平野(Niwa et al.,2017)の間で堆積相分布の特徴を比較を行い,同海岸の地殻変動様式を検討する。</p><p></p><p>2.試料と方法</p><p> 久慈平野の3地点で採取されたボーリングコア(海側から順にKJB1〜KJB3)に対し,岩相記載,粒度分析,珪藻分析を行った。また,合計26試料の木片・植物片に対し,AMS法による14C年代測定を行った。解析結果を縦断方向に並べ,地形・地質断面図中に堆積相分布および,年代測定値に基づいた500〜1000年ごとの等時間線を示した。検討の際,KJB1コア〜KJB2コア間で掘削された既報のコア試料(石村ほか,2016)の岩相や年代値も用いた。</p><p></p><p>3.結果</p><p> 久慈平野地下は,沖積基底礫層の上位に,9470〜8200 cal BPを示し,淡水生と海水生両方の珪藻化石を産出する砂泥〜砂礫層が分布する。9000〜8000 cal BPの等時間線からは,海側の砂礫の高まり背後の凹地への砂泥層の埋積が示唆されることから,この砂泥〜砂礫層は,バリアー—ラグーンシステムの構成層と解釈される。この上位には7970〜6000 cal BPを示し,上方粗粒化や上位に向かった淡水生珪藻の割合の増加を示すデルタ堆積物が認められる。最も海側では,デルタ堆積物の上位に円摩された礫を含む砂礫層を主体とする外浜〜海浜堆積物が,陸側では,亜円〜亜角礫を含む河川堆積物がそれぞれ認められる。</p><p></p><p>4.考察</p><p> 久慈平野において潮下帯で堆積したと考えられるラグーンおよびデルタ堆積物から得られた較正年代と標高から,9000〜8730 cal BP,7580〜7470 cal BP,6940〜6740 cal BP,および6400〜6260 cal BPの相対的海水準は−20.11 m,−4.3 m,−4.8 m,−5.9 mよりもそれぞれ高いと推定される。一方,既往研究で沈降傾向が推定される津軽石平野では,潮間帯堆積物および氾濫原堆積物の分布高度と年代から,同時期の相対的海水準はそれぞれ,−20.11 mよりも低い,約−11.5 m,−9.6 mよりも低い,−7.9 mよりも低いことが推定される(Niwa et al., 2017)。久慈平野と津軽石平野の完新世初期から中期にかけての相対的海水準は,どの時期においても久慈平野の方が高く,久慈平野は津軽石平野に対して相対的な隆起傾向にあると考えられる。津軽石平野に対する隆起傾向は,小本平野でも報告されており,(Niwa et al., 2019),三陸海岸の完新世地殻変動は,北部で相対的隆起,中〜南部で沈降として特徴づけられる。</p><p> 三陸海岸の八戸〜久慈間では,最終間氷期に形成された海成段丘の高度分布から隆起速度の南方への減少が報告される(宮崎・石村,2019)。一方,久慈以南では同時期に形成された海成段丘は確実度高く認定できず,最近10万年間の隆起傾向は確認できない(宮内ほか,2013)。気仙沼湾沿岸では,クリプトテフラによって最終間氷期の海成段丘と解釈された平坦面(Matsu’ura et al., 2009)が,ルミネッセンス年代測定によって,形成年代が約20万年前と再解釈され(村上ほか,2013),当該地域に最終間氷期の海成段丘が認められないことが示唆される。海成段丘分布の特徴からは,三陸海岸の上下変位は,最近10万年間では,北部で隆起,南部で沈降であったと考えて矛盾はなく,前述の完新世地殻変動の空間分布とも調和的である。このことから,10万年前以降に限定すれば,三陸海岸では,北側隆起,南側沈降という完新世と同様の地殻変動が常に生じていた可能性が考えられる。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390002184889302400
  • NII論文ID
    130007821952
  • DOI
    10.14866/ajg.2020s.0_102
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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