天山山脈北部地域の氷河起源型岩石氷河の空間分布と地表面変動

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  • The spatial distribution and surface change of glacier-derived rock glacier in the northern Tien Shan

抄録

<p>1.はじめに</p><p> 岩石氷河は,岩屑と内部氷の供給源の違いから「崖錐起源型」と「氷河起源型」に分類される(松岡, 1998).「崖錐起源型」は背後の岩盤から供給された礫で形成された崖錐に残雪や地下水が永久凍土の供給源となり発達するタイプである.「氷河起源型」は岩石氷河の上流部に氷河が存在し,氷河氷や氷河からの融解水が供給源となり発達するタイプである.「崖錐起源型」の岩石氷河は世界的に見られ研究事例も多いが,「氷河起源型」の岩石氷河は分布地域も限られ,その発達過程は明らかでない.本研究では,天山山脈北部地域のキルギス山脈において,衛星画像解析から「氷河起源型」岩石氷河の空間分布を明らかにすることを試みた.また,抽出した「氷河起源型」の岩石氷河において差分干渉SAR解析とイメージマッチング解析を用いて表面流動の水平成分を分離し,「氷河起源型」の表面流動の特徴を考察した.</p><p></p><p>2.研究地域</p><p> 本研究地域は,キルギス共和国の天山山脈の一部を構成するキルギス山脈である.山脈は,東西に長さ300kmほどあり,高度3500〜5000mほどの稜線沿いに小規模な山岳氷河が発達する.現地調査をおこなったアドギネ氷河(標高3749m)は,アラ・アルチャ谷の支谷の上流部に位置する.アドギネ氷河の下流部には「氷河起源型」岩石氷河が発達する.2015年〜2017年に測定した岩石氷河上の年平均気温と地温はそれぞれ−5.1℃と−2.6℃であり,山岳永久凍土が存在しうる環境である.</p><p></p><p>3研究手法</p><p> キルギス山脈の岩石氷河の空間分布を調べるため,空中写真,Landsat8,Sentinel-2の可視画像を用いて地表面の特徴から岩石氷河を選定した.次にALOS-2/PALSAR-2を用いて差分干渉SAR(DInSAR)解析をおこない,変動縞がみられる岩石氷河を現在も氷を含むintact(現成と停滞)岩石氷河として分類した.アドギネ氷河においては,2014,2015,2016,2019年の夏季に現地調査をおこなった.DInSAR解析では岩石氷河の地表面の変動領域と変動量を調べ,さらにUAV(Phantom4;DJI)とセスナの空撮画像から詳細なオルソモザイク画像を作成し,2時期の画像を用いたピクセル・イメージマッチング解析によって水平成分の表面流動量を求めた.これらの結果を2014年〜2019年に実施したGNSS測量の結果を用いて検証した.また,1968年,1977年,1988年の航空写真と2019年の空撮画像を用いてアドギネ氷河の末端位置の変化と長期の流動を調べた.</p><p></p><p>4.空間分布と地表面流動</p><p> DInSAR解析より地表面に変動縞が検出されたintact岩石氷河を集計した結果,キルギス山脈の調査範囲に分布する岩石氷河は450ほどあり,氷河起源型が6割,崖錐起源型が4割であった.南北で高度分布に違いがみられ,この高度帯の違いは,気象環境の違いのほか,氷河起源型が多いことから氷河末端部の高度帯に依存しているためである.</p><p> アドギネ氷河の「氷河起源型」岩石氷河のDInSAR解析の結果,地表面には変動縞がみられたことから,水平流動あるいは地表面低下が生じている(図1).次に,2016年8月26日と2019年8月1日の2時期の画像のイメージマッチング解析で得られた変動量は,DInSAR解析の変動量と一致したため,岩石氷河の地表面は融解による低下でなく,水平流動が顕著であることがわかった(図2).さらに,2016年8月26日と2019年8月1日のGNSS測量の結果,年間0.88mの水平移動が確認された.同地点のイメージマッチング解析は1.08mであり,流動方向も一致することから,この「氷河起源型」岩石氷河は現在水平流動しているといえる.</p><p></p><p>5.氷河後退後の状態</p><p> 1968年,1977年,1988年の航空写真と2019年の空撮画像を比較した結果,アドギネ氷河の末端位置は最大640mほど後退し,氷河前面にはいくつかの氷河湖が形成されていた.アドギネ氷河前面では電気探査がおこなわれており,左岸側で厚さ20m以上の氷河氷が存在し,右岸側で氷河氷は存在しない(Falatkova et al, 2019).この結果は,本研究のDInSAR解析で得られた地表面変動量の分布と一致しており,内部構造が地表面変動の大きさに影響しているといえる.</p><p> 加えて,DInSAR解析とイメージマッチング解析により得られた岩石氷河の表面流動速度は一様ではないことから,氷河から連続している左岸側では氷の供給が現在も行われている可能性がある.また,完全に氷河と分離した岩石氷河中央部の流動はわずかであったため,氷河による氷の供給は少なく流動量が小さいと考えられる.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390846609819388032
  • NII論文ID
    130007822245
  • DOI
    10.14866/ajg.2020s.0_328
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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