福島県中通り南部地域における小規模日刊地域紙の存立形態

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タイトル別名
  • Sustainability of small-scale daily community newspapers in South Naka-dori area, Fukushima prefecture

抄録

<p>福島県石川郡と東白川郡、中通り南部とも称される、JR水郡線沿線を中心とした地域には、小規模ながら週に5日以上刊行される「日刊」の地域紙が集中的に存在している。具体的には、石川郡石川町に『町民ニュース』(1946年創刊:1949年に現在の紙名に改題)と『夕刊いしかわ』(194***年創刊)、古殿町に『北部日報』(1960年)、東白川郡棚倉町に『夕刊たなぐら』(1953年)と『東白日報』(1972年)、塙町に『夕刊はなわ』(1958年)と無料のPR紙ながら「日刊」である『塙タイムス』(1999年)、矢祭町に『夕刊矢祭』(1973年)が存在している。これら5町は、合計しても人口は5万人あまり、世帯数は1.7万世帯足らずであるが、そこに7紙ないし8紙が競争的に共存していることになる。これらの新聞は、公称部数すらない場合もあるが、概ね1〜3千部程度の部数で発行されているものと思われる。</p><p></p><p> 発表者は、山田(1985)において、東北地方における日刊地域紙の立地について検討し、当時の東北地方における日刊地域紙の網羅的な把握を試みたが、その時点のリストには、石川郡の3紙と『夕刊たなぐら』はデータを収録したものの、残る東白川郡の3紙は存在自体を把握できておらず、表から漏れている(p.102, 第9表)。その上で、発行地として把握されていた石川町、古殿町、棚倉町について、県都からの距離という観点では、日刊地域紙の発行に有利と考えられる条件があることや(p.103, 第6図)、石川郡、東白川郡が、主読紙の配布状況の特徴から見ても同じような性格の位置付けになる(主読紙の世帯普及率、全国紙の配布構成比とも、やや低めである)ことを示した(p.104, 第10表)。</p><p></p><p> 山田(1985)を踏まえれば、その時点で考慮されていなかった塙町、矢祭町を含め、日刊紙が存在する5町は、県都からの距離は日刊地域紙の発行に有利だが、人口や世帯数は小さく、市場規模が限られた不安定発行地と見なせる。そこで発行されている地域紙には、不安定発行地にしばしば見られる特徴として指摘した、「a 小規模形態(判型・建頁など)、b 小規模経営(部数・従業員数・経営形態など)、c 系列紙、d 同一発行地での複数の日刊地域紙の競合」のうち、aとbは全ての地域紙に当てはまり、dも石川町、棚倉町、また無代紙を含めれば塙町にも該当する(p.106)。</p><p></p><p> 現在、5町で発行されている日刊地域紙は、いずれもB4判2ページ(増頁される場合もB4判の用紙が追加されるだけで綴じられない)を原則とし、簡易印刷機で印刷されている。従業員は実質3−5人程度(配達要員は別)取材にあたる記者は1-2名という例がほとんどである。</p><p></p><p> そのほか、地域紙に関して5町に共通する特徴として、戦前期には日刊紙発行の取り組みがなかったことと、戦後長く、活版印刷ではなく、手書き文字の謄写版印刷で日刊紙が発行されていたことが挙げられる。これらは報告者が従来から日刊地域紙の歴史的背景を検討してきた各地の事例、例えば、石巻市(山田, 1985)、佐賀市(山田, 2009)、八幡浜市(山田, 2018)、上越市(山田, 2020=印刷中)などとは、大きく事情が異なっている。</p><p></p><p> 市場規模が限られ、条件不利地域と考えられるこの地域で、他の地域では見受けられない似通った形態や性格を共有する地域紙が数多く発行されている現状は、特殊な地域的状況の中で成立した小規模日刊地域紙の経営ノウハウが、局地的に、もっぱら直接の接触による近接効果を通して普及した結果と考えられる。</p><p></p><p></p><p></p><p></p><p></p><p>(文献)</p><p></p><p>山田晴通(1984):宮城県石巻市における地域紙興亡略史−地域紙の役割変化を中心に−.新聞学評論(日本新聞学会),33,pp.215-229.</p><p></p><p>山田晴通(1985):東北地方における日刊地域紙の立地.東北地理,37,pp.95-111.</p><p></p><p>山田晴通(2009):佐賀県唐津市における地域紙興亡略史 —明治後期(1890年代)から『唐津新聞』廃刊(2008年)まで—.コミュニケーション科学,29,pp.143-169.</p><p></p><p>山田晴通(2018):愛媛県八幡浜市における日刊地域紙の生業的経営. コミュニケーション科学,48,pp.3-20.</p><p></p><p>山田晴通(2020=印刷中):新潟県上越市における地域メディアの競合・共生関係.東京経大学会誌(経営学),306,.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390002184889100160
  • NII論文ID
    130007822306
  • DOI
    10.14866/ajg.2020s.0_356
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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