量子ウォークのトポロジカル相と光の振幅制御への応用

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タイトル別名
  • Topological Phases on Quantum Walks and an Application for Controlling of Amplitudes of Photons
  • リョウシ ウォーク ノ トポロジカルソウ ト ヒカリ ノ シンプク セイギョ エ ノ オウヨウ

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抄録

<p>対称性は,普遍的現象を探求する物理学において常に重要な役割を果たしてきた.対称性は,物理系にある変換を行った際に,系が不変に保たれる性質であり,その重要性は,ネーターの定理により,対称性が保存則に結びつくことからも明らかであろう.回転対称性や時間及び空間並進対称性,ゲージ不変性,そして特殊相対論において重要なローレンツ不変性など,その例を挙げれば枚挙にいとまがない.</p><p>近年盛んに研究されているトポロジカル絶縁体における非自明なトポロジカル相も,対称性と密接な関係がある.「トポロジカル相の分類表」では,時間反転対称性,粒子–ホール対称性,カイラル対称性と呼ばれる3つの対称性の有無の組み合わせにより,この世に存在する数多の物質を僅か10種類に分類し,トポロジカル絶縁体になりうるかを言い当てることができる(現在では,結晶構造の対称性等も考慮することにより,この分類表は細分化されているが).</p><p>さらに対称性は,「非エルミートなハミルトニアン」で記述される系を調べる時にも,重要な役割を果たす.量子力学の講義では,ハミルトニアンはエルミート演算子である,と習うため,非エルミートなハミルトニアンとは何事かと思うかもしれない.しかし,原子核内の複雑な散乱問題に対し,粒子の流出入効果のある開放量子系を,現象論的な非エルミートなハミルトニアンによって記述する試みが1950年代から行われている.もちろん,非エルミートなハミルトニアンで記述される系では,一般には確率保存が成立せず,この系の量子ダイナミクスは複雑なものになることが容易に想像できる.ところが,非エルミートなハミルトニアンで記述される系が,空間反転操作と時間反転操作を同時に行った際に不変である場合,ある種の確率保存が成立する.この対称性を,空間反転対称性(パリティ;Parity)と時間反転対称性(Time-reversal symmetry)とを組み合わせた対称性として「PT対称性」と呼ぶ.現在,非エルミートなハミルトニアンにおけるPT対称性は,開放系を調べる新しい手法として,さらには新奇デバイスへの応用に向けて,注目を集めている.</p><p>我々は,トポロジカル相とPT対称性を利用することにより,特定の位置に局在した光子の確率振幅を制御できることを理論的に示した.さらに通常は,光学実験において,極力抑える必要がある光子の流出を巧みに制御することにより,我々の理論を実験により実証することに成功した.</p><p>この理論・実験研究で鍵となったのは,「量子ウォーク」と呼ばれる,おそらく多くの読者には聞き慣れない人工量子系である.本研究で目指した対称性に基づく量子ダイナミクスの制御手法は,特定の系を前提とするものではないため,様々な系に適用可能な普遍的な制御手法として重要であると考える.</p>

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 74 (11), 780-786, 2019-11-05

    一般社団法人 日本物理学会

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