耳鼻咽喉科としての認知症への対応 聴覚障害

  • 内田 育恵
    愛知医科大学耳鼻咽喉科 国立長寿医療研究センター耳鼻咽喉科

書誌事項

タイトル別名
  • 第120回日本耳鼻咽喉科学会総会シンポジウム 耳鼻咽喉科としての認知症への対応 聴覚障害
  • ダイ120カイ ニホン ジビ インコウ カガクカイ ソウカイ シンポジウム ジビ インコウカ ト シテ ノ ニンチショウ エ ノ タイオウ チョウカク ショウガイ

この論文をさがす

抄録

<p> 団塊の世代がすべて75歳以上になる2025年には, 認知症有病者数は最大730万人, 高齢者の5人に1人が認知症になると推計されている. 認知症は '誰もがなり得るもの' で '多くの人にとって身近なもの' ととらえられている.</p><p></p><p> 本稿では,『認知症のある高齢難聴者において, 補聴器導入により認知機能低下を予防することは可能か? 』『脳の病理変化があっても認知症症状を顕在化させないはたらき― '認知予備能' と聴覚に関連はあるか? 』という2つのリサーチクエスチョンを取り上げた. 認知障害のある症例を対象として補聴器導入の効果を取り扱った6本の研究では, 結果は必ずしも一定しない. われわれが国立長寿医療研究センター・もの忘れセンター受診高齢難聴者を対象に行った, 補聴器6カ月間貸し出し前後の Mini-Mental State Examination(MMSE) を比較した検討では, 補聴器導入前 MMSE は 20.26±5.23点 (range 4-27), 導入6カ月後 MMSE は 20.81±4.38点 (range 9-27) と, 統計学的に有意差を認めなかった.</p><p></p><p> 死後脳の解剖により, 脳内の神経病理変化があっても, 生前認知症の臨床症状を示していなかった例が1980年代後半から報告されるようになり, 病理変化に拮抗する何らかのメカニズムがあると考えられている. そのひとつが認知予備能 (cognitive reserve) で, もともと持っている認知プロセスや代償プロセスを駆使して, 病理学的なダメージの影響を緩和する能力と考えられている. 難聴があると劣化した聴覚入力を処理するために, 知覚処理以外の認知プロセスに利用できる認知資源が減ってしまい, 認知予備能が低下するという関係性が示唆されている. 認知症になっても健やかに安心して暮らせる社会の実現のために, 聴覚からのアプローチの重要性は増している.</p>

収録刊行物

被引用文献 (1)*注記

もっと見る

参考文献 (11)*注記

もっと見る

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ