活性硫黄による自然炎症の制御機構

DOI
  • 澤 智裕
    熊本大学大学院生命科学研究部微生物学講座

書誌事項

タイトル別名
  • Innate inflammation regulation by reactive sulfur species

抄録

<p>パターン認識受容体(Pattern recognition receptors; PRRs)は体内に侵入した異物を分子パターンとして認識し、炎症・免疫応答の活性化を介して異物の排除に関わる重要な役割を担っている。膜結合型のPRRsであるToll様受容体(TLRs)は主にNF-kB経路およびIRF-1経路の活性化を通じて炎症性サイトカインやI型インターフェロンを産生する。システインパースルフィド(Cys-SSH)は、システインのチオール側鎖(Cys-SH)に、さらに過剰な硫黄原子(S)が付加したアミノ酸誘導体である。システインパースルフィドは、グルタチオンパースルフィド(GSSH)やタンパク質パースルフィド(Prot-SSH)など多彩な分子形態で細胞内に存在する。パースルフィドは元のチオールにわずかに1つの硫黄原子が付加しただけにも関わらず、その還元力や求核性が著しく高まっており、活性酸素を強力に分解する「活性硫黄」として重要な役割を担っている。これまで活性硫黄が細胞内シグナル伝達機構の制御に関わる可能性が示唆されているが、炎症応答に対する活性硫黄の作用はほとんどわかっていない。本研究では、新規な活性硫黄ドナーを開発し、炎症応答における活性硫黄の役割を解析した。</p><p>硫黄原子をN-アセチルシステインで安定化させたハイブリッド型の活性硫黄ドナー(NACポリスルフィド)を合成した。NACポリスルフィド処理による細胞内活性硫黄量を質量分析にて解析した。またリポポリ多糖により誘導される炎症応答に対するNACポリスルフィドの影響を解析した。</p><p>マウスマクロファージ細胞株(Raw264.7細胞)をNACポリスルフィドで処理すると、速やかに細胞内の活性硫黄含量が増加した。また、NACポリスルフィドで処理したRaw264.7細胞においてLPS刺激の下流シグナルで、特にMyD88-NF-κBとTRIF-IRF3経路が著しく抑制されることが分かった。その結果、炎症性サイトカインであるTNFαならびにIFNβの産生や、さらには誘導型一酸化窒素合成酵素の発現が顕著に抑制された。マウス腹腔内に致死量のLPSを投与するエンドトキシンショックモデルに対し、NACポリスルフィドを投与するとマウスの生存率が著しく改善した。このことから活性硫黄による自然免疫応答の活性画の抑制はin vivoにおいても起こりうることが示された。以上のことから、活性硫黄分子種は、自然炎症応答の制御に密接に関わっている可能性が示唆された。</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390567172568525952
  • NII論文ID
    130007898599
  • DOI
    10.14869/toxpt.47.1.0_s4-3
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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