関東平野における近年の風系変化把握に向けた大気常時監視局の地点情報整備と風速補正

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  • Collection of location information of air quality monitoring stations and wind speed adjustment for analysis of recent changes in local wind systems over the Kanto Plain

抄録

<p>1. はじめに</p><p>東京や熊谷など関東地方平野部においては,夏季の高温が頻発している.日中の気温分布に影響を及ぼす大きな要因として海陸風などの局地風系が挙げられる.関東平野の局地風系は,日本付近の気圧傾度と密接に関係し,例えば夏型気圧配置の頻度増加と関連して近年の高温にも関与している可能性が指摘される(瀬戸 2014).しかし,気圧配置型の経年変化に伴う,局地風系の変化や気温分布に及ぼす影響は明らかではない.本研究ではこれらの解明に向けて,関東平野における高密度な地上気象観測資料を用いた統計的検討を行うが,その際に,観測環境の変化に起因する局所的な影響を除く必要がある.そこで,前報(2020年春季大会P169)で報告した,観測高さを考慮した風速補正とともに,長期にわたる地点情報の収集を行い,均質な地上風データ整備に向けた検討を行った.</p><p>2. 資料と方法</p><p>気象庁アメダスに加えて,関東南部の各都県による大気汚染常時監視測定局(常監局)における風向風速の毎時値を用いた.対象期間は1979〜2018年の7,8月とした.後述する常監局地点情報の整備を行ったのち,国土交通省の「国土数値情報(土地利用細分メッシュデータ)」を用いて,観測点周囲の土地利用状況から各観測点の風向別地表面粗度を推定した.次に,風速計の設置高度および算出された地表面粗度を,対数則に基づく風速の補正式に適用して統一高度(10 m)の風速を求め,観測高さの違いによる影響の補正を行った.なお,地点情報未整備の期間があるため,風速補正の検討は2015,2016年を対象とした.</p><p>3. 地点情報の整備</p><p>常監局の観測値は1970 年代から利用できる地点もあり,環境省が都道府県等から報告を受けた測定結果を国立環境研究所がとりまとめている.所在地などの地点情報も提供されているが,大気汚染の観測が主目的であるため,近隣へ移設した場合等に所在地が実際と異なることがあり,地表面粗度の推定に必要となる,観測点の位置や風速計高さの変遷がアメダスと比較して十分には把握されていない.</p><p>そこでまず,各都県による過去の大気汚染測定結果報告書により,同一地点で所在地や風速計高さに変更がないかを調べ,対応する観測点情報を紐づけして前後の年度も参照し,これらの整合性を調査した.過去の報告書においては,風速計高さについて概略での記載や無記載の例などがあったため,移設や高さ変更に関する記載がない場合には同一所在地における最新年度の風速計高さを採用した.</p><p>現在までに,報告書の調査が完了した東京都と神奈川県について,1979〜2018年度における観測点の位置情報と風速計高さの履歴を整備した.神奈川県では,38地点で移設や風速計高さの変更なく観測年数が25年以上あった一方,16地点において3 km以内での移設または高さ変更があるものの通算で25年以上の観測があった.これらの地点では,地点の廃止に伴って近隣へ移設している例が多く,風速補正により観測値が接続できれば,より多くの地点が長期に継続して使用できる可能性があると考えられた.</p><p>4. 地表面粗度の推定と風速の補正</p><p>地表面粗度の推定は,桑形・近藤(1990)による推定方法を参考にした.16方位の各風向に対して観測点から中心角45度,観測高度の100倍の半径(最大2.5 km)を持つ扇形を考え,GISを用いて土地利用種ごとの面積比を算出し,実験式(瀬戸・高橋 2011)により2016年における粗度を推定した.また,常監局には近傍の地物による風への影響が大きい地点も含まれるため,西ほか(2015)による品質管理手法を参考に,内挿したアメダス観測値と比較して風向や風速の差が一定基準を超過する地点を除いた.</p><p>対数則に基づく補正式により7,8月における15時の平均風速を求めた結果,観測高度の最も低い地点(5 m)で補正前の約1.39倍,最も高い地点(60 m)で約0.58倍に補正された.観測高度の高い地点(20 m以上)は東京都と神奈川県に比較的多く,これらの地域では補正前と比較して平均風速が減少した.また,夏季の典型的な局地風系の出現が期待される晴天日(東京の日照6時間以上,15時の補正後風速が2〜4 m/sかつ風向が南東〜南)32日を抽出して収束・発散量を求めたところ,補正前と比較して埼玉県南部付近にみられる収束が弱まる傾向が認められた.</p><p>今後,観測点情報の整備を進めるとともに,長期に使用できる地点の選別を行って均質な地上風データを整備し,近年における局地風系の変化について検討したい.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390004951543479296
  • NII論文ID
    130007949237
  • DOI
    10.14866/ajg.2020a.0_125
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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